第38話 戦いからは逃げられない
「刃の暗示! 刃の暗示! 返事をしろ!」
マスターであるナイツの呼び声に目を覚ますと、そこは〈刃の殺人〉の中だった。
「ナイツ………」
「良かった。みんなが運んでくれたんだぞ。感謝しないとな」
ヘリコプターの回転するプロペラの音に、自分が生還したことを自覚する。
刃の暗示は「ありがとう」と感謝の言葉を述べ、傷ついた体を癒すためにしばしの眠りについた。
一方で炎魔人の暗示にライトノベルである〈炎魔人の殺人〉を渡されたコサメは、究極の主人公のマスターに成れと言われているようでプレッシャーになる。
実際渡された時点で彼が戦力になろうとしているのは理解できる。
ライトノベルを読むことに関して抵抗があるかと言うと全然ない。
ただもしも彼の機嫌を損ねた時を思うとゾッとした。
「私に成れるかな」
弱音を吐く彼女に、電撃の暗示が〈電撃の殺人〉から口を開く。
『コサメ? なに自信なさそうにしてるの?』
「だって私なんて究極の主人公には釣り合わないよ。そうでしょ」
自分を過小評価するマスターに、親友として喝を入れるべく強い言葉を使い始める。
『あなたはどうして自分に自信が持てないの! 私からすれば羨ましいことばかり! それを否定しているコサメはワガママがすぎる!』
『電撃の暗示、それぐらいにしておけよ』
2人目の親友である破壊の暗示はこれ以上の言動に危機感を感じ、圧がかかった言葉を言い放つ。
『どうして! 私はコサメのために言ってるんだよ!』
『それなら後でやれ、他の人に迷惑だろ』
ヘリコプターの狭い中で大声を出すことがどれだけ耳障りなのか、それを理解するのにそう時間は掛からなかった。
『………』
『分かったら静かにしてろ』
2人の会話を聞いてコサメは自分の情けなさを再確認する。
もしも彼らがいなければどうなっていたか。
(私は弱音吐いてばかりだなぁ。だから電撃の暗示にも怒られる)
彼女は顔を歪ませ、静かに涙を流しながら蹲るのだった。
基地に到着したのは月明かりが照らす時間。
「相変わらずベッタりなんだから」
ヒメの右腕に、コサメはガッシリと抱きつき胸を押し当てる。
「良いじゃないですか〜。これは愛情表現ってやつですよ〜」
まるで犬の様に甘えてくる後輩に苦笑いしつつ、歩みを進める。
電灯が白く光り、広い基地の中を歩いて行く。
車を取りに行くためスマホで歩きによる自分が働いている施設へのガイドを開始する。
予想時間が2時間ほどと表示され、「ヒエー!?」と悲鳴を上げながらドン引きした。
一気に青ざめた表情をする彼女はこの人間の中で唯一の男性であるナイツに話し掛ける。
「ナイツさん、私車を職場に置いて来てるので一緒に行きませんか? 女だけじゃ心細いので」
「それは構わないが勝手に帰って良いのか? 自衛隊が許してはくれないだろ?」
確かにそうなのだが、無理矢理連れて来て親友を戦わせたことを考えれば合法だろう。
そんな考えが巡り、「いやいや」と自衛隊のやり方を否定する。
「私達はただの一般人ですよ。それなのに戦場に送り込むなんて自衛隊は頭がおかしい」
「しかしなぁ」
もしも帰れたとしておそらく指名手配されるのが落ちであると彼は予感していた。
主人公と言う脅威を持っているのだから、まさしく首を絞められている状態だ。
「今の状況で帰れば確実に警察に捕まる。銃刀法違反の罪を被せられてな。自衛隊の圧力ならそれが可能だし、そもそもこのご時世主人公の事を武器として見てる奴は大勢いる。だからやめとけ」
反論できないほどまともな回答に、ヒメはしばらく絶句する。
だが………
「この戦いが終わればどうせ私達はお払い箱、殺されるのが目に見えています。なら帰った方がまだマシです」
口を開いたと思えば殺されるとかなんとかオーバーな事を言ってくるのでナイツは「ふん」と呆れたように鼻を鳴らす。
「勝手にしろ」
ヒメとコサメが寄り添いながら歩いて行く姿を確認し、深いため息を吐く。
そして合宿所への道を近くの案内板で理解し、歩き始めるのだった。
2人は基地を出るべく出入口に向かうが、門番をしている兵士に見つかってしまう。
「そこでなにをしている。早く合宿所に向かえ」
兵士が近づいて来たところで救いの暗示が飛び出し、監視カメラをハンドガンで撃ち壊し、後ろへ神速で回り込み、腕で首を十字に絞め気絶させる。
泡を吹いている間に彼女を〈救いの暗示〉に戻し門を登り抜け、急いで施設に走る。
するとヒメがふと思いついた。
「タクシー呼べるアプリがあるからそれを使って施設に向かいましょう」
「分かりました」
足を止めスマホのアプリを起動、タクシーに来てもらえるように急いで設定する。
「これで少し待てばタクシーが来る」
「帰れるんですよね。私達」
不安そうに見つめてくるコサメにヒメは優しい笑みを浮かべ、「大丈夫、必ず帰れるから」と彼女の肩を叩くのだった。
しばらくしてタクシーが到着、車内に入る。
「案内するのでそこに向かってくれませんか?」
ドアを閉め、運転手に話し掛ける。
「それはできません。僕はタクシー運転手ではないので」
謎めいたことを言われ恐怖心で出ようとすると、鍵を閉められまったく開かない。
運転手はアクセルを踏み、タクシーが走り出す。
一体どこへ向かうのか。
2人には検討もつかないのだった。




