第36話 黒き不死者
刃の暗示が蹴りの暗示と交戦している間、救いの暗示と残酷な映画の暗示は黙々とスタジオに向かっていると、黙ることに耐えかねた彼が喋り始める。
「俺達2年の付き合いだけどよぉ。やっぱあのことは許してはくれないよな」
その発言に彼女は涼しげな表情で目を細める。
「マスターの命令だったんだもの、許すもなにもないわ。私はね、物語の中で命令で動く兵士に何度も殺されかけたし、何度も従ってきた。あなたはどんな物語を経験してきたの?」
〈残酷な映画の殺人〉の内容。
それはとある町の中に住む殺人鬼の話。
彼は不死身の怪物である。
なにをされようが一瞬のうちに再生し、復活する。
どこで産まれたのか、なぜ人を殺すのか。
そんなことは軍には関係ないことだ。
なぜならその殺人鬼の細胞を抽出すれば軍事兵器に利用できるからだである。
兵士を送り込み、怪物を回収しようとするが、誰も帰還して来ない。
ただ殺される人数が増えるばかり。
最終的に危険分子として駆除が命じられ、うんざりする兵士達だったがすぐにそれは恐怖に変わり、そして殺されていった。
しかし〈ミカイテルオ〉の作品は必ず主人公が死亡することが定められている。
不死身の怪物は市民を殺すことを使命とし、今まで生きてきた。
それを否定されることは、生き甲斐だった仕事を失うのと同じ感覚が彼にはあった。
軍は怪物を完全に消滅させるため、ロケットに誘い込み、太陽に飛ばす作戦を立てる。
作戦は決行され、兵士達が犠牲になる中最後はバズーカをくらって内部に押し込まれ、ロケットは打ち上げられた。
こうして太陽に突っ込んだ彼は再生速度が追いつかず、この世から消えたのだった。
話を聞いた救いの暗示は「ふーん」と鼻を鳴らす。
「なるほどね。あなたがどうしてそこまで殺人にこだわりがあるのかが分かったわ」
「ラノベの主人公だった俺はまともな奴じゃないキャラだった。だからみんな最後まで読んでもらえなかった。でもそんな俺の物語を読んでくれたヒメには感謝してる」
自分の事を執事にすると言われ、最初は苛立ちを感じていた。
だが蓋を開けてみればいつの間にか友達として仲良くさせてもらっている。
だからこそ今この戦いを生き残らなければならない。
そう残酷な映画の暗示は感じた。
話し合いをしている間にスタジオに到着、中に侵入し、2人は拳銃の銃口を向ける。
銃口の先には赤き戦士正義の暗示、ガスマスクの男病原菌の暗示、巨大な猛犬番犬の暗示の3体がいた。
「お前、まだ生きていたのか。今度こそここで倒す」
赤き戦士の発言に救いの暗示は無表情で無言のままトリガーを弾く。
射ち放たれた銃弾を黄金の剣ブレイドゴールドで両断し、「スピードアップ」と口にした後、右サイドスイッチを叩く。
足の血管が浮き出て来ると、足を踏みしめ一気に加速、白髪の彼女に斬りかかる。
しかしその動きは肉眼で捉えられる。
サバイバルナイフで左に振るわれたブレイドゴールドを防ぎ、弾き返す。
連撃をすべて受け止め、回転蹴りを横っ腹にくらわせる。
あまりの力に大きく吹き飛ばされ、機材に激突、火花を散らした。
「グッ…………」
正義の暗示と同等の戦闘力を持つと確信した病原菌の暗示は勝ち目がないことを理解し、残酷な映画の暗示に狙いをつける。
ハンドガンの銃口を黒き者に向け、連射する。
だが不死身である彼に効くはずがなく、次元の裂け目からチェーンソーが取り出される。
「悪いな、俺は不死身だ」
豪快に走り出し、エンジンを起動させる。
回転する刃が迫り、ランクがアタリだと知った以上頼りは正義の暗示しかいなくなった。
しかし2人も位が高い相手がいる。
勝てる訳がない。
病原菌の暗示の意味は主人公には通じないのだから。
戦闘経験は長いがアタリと戦うとなると別の話。
「不死身の主人公なんて聞いてないぞ!? こんな奴に勝てるかよ!?」
弱音を吐きながら攻撃を回避すると、その隙を突き番犬の暗示が残酷な映画の暗示に飛び掛る。
首を噛み千切り、頭が床に転がる。
だがすぐに頭から体が復元され、ゆっくりと立ち上がると、次元の裂け目からクロスボウを右手で取り出し、番犬の暗示に矢先を向ける。
すると猛犬は走り出し、血に汚れた牙を見せつけながら襲いかかる。
「番犬の暗示! 止まれ!」
無意味だと言うのになぜこの犬は走り出すのか。
不死身である相手に向かっていく無謀な行為。
いや、違う。
これは仲間である自分を信じた勇気の決断。
それに答えるべく病原菌の暗示はハンドガンの銃口をクロスボウを持つ右手に向け撃ち込み、指を吹き飛ばした。
降下していく武器の回収を諦め、再生した右手で拳を作り、強烈な一撃をくらわせようとする。
「ワオーン!!!」
咆哮を上げ、敵を押し倒す。
4メートルもある巨体に押さえつけられ、身動きが取れない。
救いの暗示は救出に向かうが、正義の暗示が行く手を阻む。
「あなた主人公達を排除するんじゃなかったの?」
「俺は傷つき狂っていく相棒の光景を見てしまった。自分の事を害だと追い詰められ、幻覚まで見るようになった。あれ以上壊れてしまう前にこの戦いを終わらせる。排除はその後だ。スピードアップ」
右サイドスイッチを叩き、足の血管を浮き出させる。
足を踏みしめ一気に加速、さらに左サイドスイッチを叩き、ベルトのスクリューが回転、ブレードゴールドに伝達され、貫きに掛るのだった。




