第32話 強制戦闘
あれから2年。
ヒメは保育士免許を取得するため大学に進学、現在は障害者を受け入れている施設で実習生として勤めている。
実感したことは重い症状を持つ利用者から、セイギの様に軽い症状を持っている利用者まで、人それぞれということ。
職員の方が利用者を思いやっていることだ。
午後4時になり、帰り仕度を利用者がし始める。
「ヒグラシさん」
男性の利用者に呼ばれ、「どうしました?」と声をかける。
「僕はですね、人を助けるために研究をしてるんですけど、資料を見てくれませんか?」
「ごめんなさい。私まだここに慣れていないですし、それに私みたいな未熟者より理解できる熟練者に読んでもらった方が資料を書いた甲斐があるんじゃないですか?」
彼の研究は無意味な行為だと職員に教えてもらっている。
だがそれを言ってしまえば怒りを爆発させてしまい、この施設に来なくなってしまう。
そうなると会社としての利益が減り、批判を受けるのは自分だとヒメは自覚している。
「分かりました………」
男性はしょんぼりした様子で次の職員に狙いを定め、話しかける。
下手なことは言えない立場である彼女はこれも保育士免許のためだと言葉を選ぶ。
そうでなければ子どもの預かり保育などできるはずがない。
(私はここで成績を高く貰わなきゃならない。だからこそ頑張って乗り越えないと)
人の症状を理解しなければこの仕事は務まらない。
まだ慣れない環境だが、やりごたえは十分あった。
と、出入り口で女性の職員が焦りながらヒメを呼んだ。
「どうし…………」
言葉を失った。
なぜなら立っていたのが軍服を着た女性だったからだ。
「私はサイバレンコと申します。ヒグラシヒメさん、ご同行願いますか」
自衛隊である彼女の命令に、ヒメは従うしかなかった。
装甲車の後ろの席に乗り込み。シートベルトを巻くと、知り合いが座っていることに驚きを隠せなかった。
「ヒメ先輩? どうしてここに?」
かわいい服装に変わっても、美しく成長しても、そのボサボサの茶髪と声はコサメに違いない。
目を丸くする2人を他所に、レンコはアクセルを踏み、施設の駐車場を出る。
「コサメこそなんでこの車に乗ってるの? サイバさんでしたっけ、私達をどこに連れて行くんです?」
ヒメの質問にレンコは信号が赤になり、ゆっくりとブレーキをかける。
「あなた達は主人公のマスター。だから連れて来て戦いに参加させてくれと政府からの指示を受けています」
予想外の答えにヒメは唖然となった。
国民を戦わせると言う第二次世界大戦でもあるまいことを政府は了承している。
しかも自分がマスターだと知られており、なにより…………
「コサメが………主人公のマスター………」
「ヒメ先輩が私と同じマスター………」
2人の頭の中で過ってしまった。
後輩が………
先輩が………
殺人鬼なんじゃないかと。
「ヒメ先輩………あのー………」
「私の友達はそんなことしない! コサメの子達だってそうでしょ! 」
「まだなにも言ってないじゃないですか」
そんな会話を聞き流し、青信号になったのでレンコは右に曲がるためウィンカーを出し、アクセルを踏む。
ハンドルを右に切り、目的の場所に向かった。
30分後、自衛隊基地の広場に到着し、装甲車から降りる。
そこにいるのはおそらく主人公のマスター達だろう。
混乱しているのは皆同じ、1人を除いては。
(あいつを殺せるなら、自衛隊にでも手を貸す。首を洗って待ってなさい)
金髪の女性、メイシアは望んでいた。
友人を悪だと見下し、殺した男に復讐するチャンスを。
するとレンコが前に出た矢先、〈軍勢の殺人〉をベルト部分のホルダーから取り出し、軍勢の暗示達を召喚する。
(あの人が主人公を指揮していた自衛隊のマスター)
ヒメの中で驚きより呆れを感じていた。
散々自分達マスターを襲っておいて、今度は戦いに参加させると言う暴挙に出ている。
だが今の自衛隊に従わなければ殺されるのは誰もが理解していた。
「私達はあなた達を従わせる権利がある。圧倒的な力を持っている。ゲームマスターと名乗った男から押収した〈魂の殺人〉をなぁ」
ふざけている。
力でねじ伏せようとするなんて間違ってる。
「あなた達に戦わないと言う選択肢はない。もしも抵抗するならば」
レンコの発言に合わせ、軍勢の暗示達がアサルトライフルの銃口をマスター達に向ける。
分かっている。
主人公を召喚する前に射殺されることぐらい。
逆らうことを諦め、従うことしかできないと皆感じとった。
これから主人公同士の争いが始まる。
それを報道しているニュース番組、シンジツを放送しているノゾミは情報の暗示を手に入れたことを後悔していた。
(どうしてこんなことに…………)
こんなはずじゃなかった。
こんなはずじゃ…………
頭の中でそんな声が響く。
するとスタジオのカメラにとんでもないものが映った。
なんと赤き戦士、正義の暗示がブレイドゴールドでキャスター達を両断したのだ。
「聴け! 俺達はレジスタンス! 正義のために動き、悪を滅ぼす使者である! このテレビ局は我々によって包囲されている! 自衛隊と言う名の独裁者にこれ以上情報を流すことは許さない! 番犬の暗示、病原菌の暗示、よろしく頼む」
2人の主人公は首を縦に振り、スタジオを出ると、放送管理室へ向かう。
「まずい。みんな逃げないと!」
ノゾミが真っ先に非常口に向かいスタッフ達を誘導する。
しかし病原菌の暗示の放ったウイルスによって全員倒れていく。
開かれたドアから4メートルほどの超大型犬である主人公、番犬の暗示が駆けてきたと思えば、彼女に飛びかかり、腕に噛み付いた。
あまりの勢いに倒れ込んでしまい。身動きが取れない。
ガスマスクの男、病原菌の暗示がゆっくり歩きながら次元の裂け目からハンドガンを取り出す。
「お前のせいでマスターの友人が逮捕された。死んで詫びろ」
頭に向けて1発、2発、3発、憎しみがこもった銃弾を撃ち込み、達成感から彼は引き笑いをするのだった。




