第30話 悪夢から帰還するダークヒーロー
カゲタが目を覚ますと、そこは病室のベッドの上。
立ち上がろうとするが、全身に激痛が走る。
無理やり体を起こし、痛みに耐えながら机の上にある〈銃の殺人〉を手に取る。
(ひとまず助かったと言うことか。銃の暗示、ありがとな)
相棒に感謝しつつ、部屋を出ようとするとスライド式のドアがゆっくりと開く。
そこにいたのは妻と小学生の息子だった。
「お父さん!? まだ動いちゃダメだよ!?」
息子が心配の眼差しでカゲタに駆け寄る。
「すまんすまん。お父さんにはなにが起きたかさっぱりでなぁ」
彼の笑った表情に、妻はホッとした様子でなにが起きたのかを説明し始める。
「警察からの話だけど、お父さんは自衛隊の兵士に襲われたの。なんででしょうね? 人を守るべき人達があなたを狙うなんて」
「…………最近の自衛隊はなにかに動かされるように人を狙って行動している。これじゃ自衛隊じゃなくて自虐隊だな」
自衛隊は本来目立った行動はしない。
テレビで流れる映像はカモフラージュであることは薄々分かっていた。
しかし国民に危害を加えるようなことをして、政府が黙っていないはず。
なのになぜ、なぜ政府は沈黙を続けているのか。
そんなことを考えながらベッドの上に座り、カゲタは銃の暗示の心配をしつつ、一家団欒の時間を楽しむのだった。
一方その頃、セイギは同じく病院のベッドの上で意識をなくしていた。
夢の中で彼は鎌を持ち、黒いローブを着た骸骨と出会う。
「君はもしかして死神かい?」
自分の死を心待ちにしていたであろう存在と思ったが、骸骨は横に首を振り、それを否定する。
「我は悪夢の暗示。お前の命を刈り取る者ではない」
掠れた男の声で悪夢の暗示は自分の事を主人公だと認識させる。
「名前からして意味は分かるよ。でもどうして君は俺の夢の中にいるのかな?」
「お前は自分の事を障害者として未完成な存在だと下に見ている。確かに障害者の害は文字通り他人に対して害をもたらすからと名付けられた用語、だがそれは古い考えだ…………と思われないのが今の現状。自傷。暴れる。言葉が発せられたところで会話として成立しない。変なこだわりがある。世間はお前の様な者達を区別し、否定する。そう思っているんだろう?」
図星を突かれ、怒りが込み上げてきたセイギは涙を流し、叫びを上げる。
「あー! いつだってそうだよ! 周りの人は俺をいつも苛立たせる! 頑張りが1つの失敗で水の泡になるとか、お母さんはいつもプレッシャーをかけてくるし、職場体験に行けば自分の事を冷たい視線で見てくる! もううんざりなんだよ! こんなの………こんなの………ウワーーーーー!!!!」
発狂した彼の肉体は怪物へ変貌させ、かと思えば特撮のダークヒーローを思わせる黒き戦士に変貌を遂げた。
「安心しろ。お前はただ自分の正義を貫けばいい。さあ目覚めて怒りをぶち撒けてしまえ」
その言葉を最後に、夢から覚めると、そこは病室のベッドの上。
体全身に激痛が走り、頬と制服が濡れていた。
左手を確認すると、なんと血まみれになっている。
恐怖で体が震え、瞬きをした後、その手には血など一滴もなかった。
(なんなのさ!? 俺が正義の味方になっちゃいけないのかよ!? )
セイギの見た血まみれの左手は殺意と思い込みにより脳が錯覚を引き起こした物。
いわゆる幻覚である。
精神的に不安定になったセイギの病室に、帽子を被り直す探偵、シゲルが入ってくる。
その表情は真剣そのもの、彼の事を心配して駆けつけたのだ。
「セイギ君、今正義の暗示と槍の暗示が自衛隊と交戦中だ。大丈夫だとは思うが、これ以上の戦闘行為は世間に多大な影響が…………」
「俺は…………正義の味方にはなれないんですかね…………」
その一言に対してシゲルは、なにかがおかしいと感じ取る。
「なにを言っているんだ? セイギ君は立派なヒーローじゃないか」
「じゃあなんで俺は殺されかけたんですか!? ヒーローは悪い奴を倒し、市民を守る。なのに殺人鬼扱いをされ、挙句の果てには市民に2回も殺されかけたんですよ!? そんなの………そんなの俺が悪者みたいじゃないですか!?」
表情を歪ませ、拳を強く握る。
そんな彼に送る言葉を整理していると、金属音と走っているのが分かるほど響く足音が聞こえてくる。
ため息を吐きながら胸ポケットから〈変身の殺人〉を取り出し、ページを開く。
変身の暗示が腰に巻かれるように召喚され、「変身」と口にした後、腕を十字にクロスさせ、腕で右サイドスイッチを押す。
両手を平手にしてビシッと伸ばし、光に包まれ黒き戦士の姿に変貌を遂げると、セイギをお姫様抱っこする。
「自衛隊の主人公がここに来てる。ここから逃げるぞ」
「でもどこから………まさか!?」
「そのまさかだ! 行くぞ!」
なんと彼は窓を開け、そこから飛び降りる。
「ウソでしょーーーー!?」
予想外のことにセイギは悲鳴を上げるが、シゲルは華麗に着地する。
「さあ、2人の元へ向かうぞぉ。スピード!」
変身の暗示の声に反応し、黒き戦士から青き戦士に変化した。
右足を踏みしめた瞬間、一気に加速し、彼は正義の暗示達の元へ向かうのだった。




