第29話 力が恐怖を生む
「敵を視認。殲滅する」
仲間の 主人公 である鎧の暗示に乗り込んでいる女性型主人公、 天から降る光線の暗示は左腕を天に伸ばす。
視線の先には正義の暗示、槍の暗示の姿があった。
「スピードアップ」
正義の暗示は右サイドスイッチを叩き、足から血管を浮き上がらせる。
「行くぞ!」
右足を踏みしめ肉眼では捉えられないスピードまで加速、ベルトのスクリュー部分からブレイドゴールドを引き抜く。
「敵が急接近」
「なら早く撃っちまえ!」
鎧の暗示の指示に従い、彼女は上空から光線を放つ。
「その程度のスピードで!」
光線など取るに足らず、神速で躱され、さらにブレイドゴールドの連撃、装甲に亀裂が入る。
「とっておきをくらわせてやる。槍の暗示、必殺技パート1だ!」
「あれですか? 物好きですねぇ」
2人の会話を聞いていやな予感がし、後ろ側のブースターを起動、距離を離そうとする。
だが銃声と共にブースターに2発の銃弾が命中し、爆発を引き起こす。
「隙は作ったぜ〜」
リボルバーの銃口から漂う火薬を吹く銃の暗示の発言を合図に、立ち上がろうとしている天から降る光線の暗示と鎧の暗示のふくらはぎを正義の暗示は持ち上げ、ジャイアントスイングをかける。
(セイギの読ませてくれた漫画の技の改良型。何度も練習したこの技。成功させてみせる)
技を掛けるのを確認し、槍の暗示は槍をアスファルトの道に落とし、両足をバネにして高く飛び上がる。
こちらへ投げられた2人を左腕によるラリアットで首ごと受け止め、落下していく。
投げられた衝撃とラリアットの追撃でもうすでに天から降る光線の暗示の首にヒビが入っている。
「「リベンジングボンバー!」」
下から正義の暗示が左サイドスイッチを叩き、右腕にエネルギーが伝達、そのままラリアットの体勢に入る。
2人の首は左腕と右腕に挟み込まれ、あまりの衝撃で撃ち砕かれた。
口から血を吐き、崩れ落ちる姿を、2人の執行人は只々見つめる。
「さて〜。2人がカッコいい必殺技を出してる間に、観客が集まって来たぜ〜」
銃の暗示の皮肉じみた発言に辺りを見回すと、スマホで写真や動画を撮る人集りができていた。
そこに軍勢の暗示達と自衛隊の武装した兵士達が到着、アサルトライフルを構え、市民を安全な場所に誘導していく。
2人はすでにブックエスケープを使用しているため、自力で逃走するしかない。
と、そこに次元の裂け目が開かれ、支配者の暗示と剣豪の暗示が現れた。
その場にいる全員が動けなくなり、彼女は頬を膨らませる。
「ちょっと〜。軍勢の暗示のみんな〜。そしてそこの3人〜。ケンカはダメだぞ〜」
この状況で支配者の暗示に来られるのはまずい。
なぜならこれ以上世間に知られると、主人公と究極の主人公の存在が認識されてしまう。
圧倒的な力を見せつけると言うことは人間にとって恐怖を植え付けられる行為。
バトルアニメの様に力でねじ伏せればいいと言う訳ではない。
だがそう思っている正義の暗示自身も今までそうしてきたのだからと自分を責める。
「まったく、軍勢の暗示の残党がまだいるとは。支配者の暗示、どうする? 始末するか?」
剣豪の暗示の持つ刀の刃が夕暮れに光る。
はんにゃのお面が向けられた彼女は「う〜ん」と親指と人差し指を顎に当て、考え込む。
この間にも情報は漏洩していると言うのに。
一方その頃お小遣いで買った梅味のポテトチップスを自室でヒメは救いの暗示と残酷な映画の暗示と共に食べていた。
「最近私思うんだけど、自衛隊が主人公を使われるようになって、支配者の暗示が活発に動いてない?」
彼女の質問に影の様に真っ黒ののっぺら坊、残酷な映画の暗示が返答する。
「かつての俺達の様な主人公狩りをしている奴は必ず彼女に厳重注意を受ける。前のマスターなどのイレギュラー以外は逆らえないほどの力があるんだ。特にあのすべてのものを停止、金縛りにする意味。あれはかなり広い範囲で発動できる」
「支配者の暗示は言ってた。救いの暗示以外の主人公を殺すことは都合が良すぎることだって。その意味が分かった気がする」
ポテトチップスを口に運び、ザクザクと音を響かせる。
「主人公は生きてる。ただマスターに従うだけの機械なんかじゃない。ちゃんと心を持ってる。そうでしょ、2人共」
マスターとしてではなく、救いの暗示は友人として、残酷な映画の暗示は前のマスターの解放者として、ヒメの言葉が身に染みるのだった。




