第25話 黒髪の少女「後編」
風呂から上がり、朝食を食べる暇もなく渋々スーツに着替え、スマホをバッグに入れ、玄関に向かう。
するとドタドタと足音を立て、少女が〈減少の殺人〉を持って走って来た。
次元の裂け目から白い子ども用の靴を取り出すと、ゆっくりと膝を曲げ玄関に置く。
「パパ、私も仕事場に着いて行って良いですか?」
その質問に対して表情を強張らせる。
「君は誰なんだ? 僕がいつパパになったかは知らないけど、娘を持ったつもりはない」
ケンイチの冷たい回答に、少女は一瞬表情を曇らせるが、「私にとってパパはパパです!」と確信を得ているかの様に〈減少の殺人〉を面と向かって渡す。
「人の物を勝手に」
「すいません。それでも私パパと一緒に居たいんです」
顔を赤らめながら恥ずかしそうにもじもじする少女。
そして〈減少の殺人〉に吸い込まれていき、その場から消えた。
『これで一緒に行けますね』
今なにが起きたのか、まず分かったのは彼女が人間ではないこと。
もしこの本を置いて行っても着いて来るのは予想がついた。
「分かった。一緒に行こう、その代わり絶対に人前で喋らないこと、いいね?」
『もちろんですパパ』
パパと言うのをやめてほしいが、この感じだとやめてはくれなさそうだ。
「いってきます………」
亡くなった妻と娘にそう告げると、玄関を出て、カギを閉め、仕事場に車で向かった。
〈減少の殺人〉をデスクの上に置くと、同僚の男性がニヤリとこちらを見つめてくる。
「なんだよ」
「いや、お前にもそんな趣味があるんだなぁってな」
男性の発言にケンイチはため息を吐き、デスクのロッカーにしまう。
「そういえばカワギ、最近ミカイテルオってラノベ作家が書いたラノベの作品がよぉ、結構やばいらしいぜ」
「やばいって、どう言う意味だ?」
質問に対して、耳元にコソコソと喋り始める。
「どうやら作品を読み終えた人の近く奴らがみんな死んじまってるそうだ。もしもそのラノベがミカイテルオの作品なら、すぐに売ることをオススメするぜ俺は」
確かに〈減少の殺人〉の作者はミカイテルオだ。
もし話が本当なら、あの少女が人殺しの化け物なら、そう考えるとゾッとする。
しかし逆に考えると、妻と娘を殺した犯人に復讐できるかもしれない。
そんな考えが過った彼は少女の姿を思い出し、利用する価値はあると確信するのだった。
帰宅後、時刻は9時ごろ。
(とりあえず御飯にするか)
〈減少の殺人〉から少女を召喚し、買い集めた食材でナポリタンを作り始める。
「今晩御飯を作るから、イスに座ってて」
「えっ、私の分も作ってくださるんですか?」
不思議そうにケンイチを見上げ、目を丸くする少女。
「君が僕を父親だと思うなら当たり前のことでしょ? 待っててね。すぐに作るから」
「はい!」
ウキウキしながらイスに座り、足をばたつかせる彼女の姿を見て、(素直だなぁ)と感心する。
「そう言えば名前を聞いてなかったね」
「そうでしたね。私の名前は減少の暗示と申します。今後ともよろしくお願いします。パパ」
にこやかな笑顔でこちらを見つめてくる減少の暗示。
彼は思った。
こんなにも愛らしい子が噂通りの力を持っているのなら、利用するなんてことをしていいものかと。
ナポリタンを食べながら減少の暗示から聞いた話だが、特殊能力を持つ者を主人公と言い、その所有者はマスターと言われる。
それから妻と娘を殺した犯人に復讐したいと言うと「私はパパの復讐に付き合います。一緒に頑張りましょう」と唇に付いたケチャップをティッシュで拭うのだった。
その後休みの日は減少の暗示と買い物に行ったり、遊びに行ったりもした。
そしてシンジツと言うニュース番組を観始めたのもこの頃からだ。
シンジツは様々な主人公の情報を教えてくれる。
それに対してケンイチはあの悪魔達を消したいと思い始めるのだった。
現代に戻り、妻と娘が埋葬されている墓地に2人は手を合わせる。
「ようやく、ようやく犯人に復讐できたよ。だから、安心して成仏してくれ」
ケンイチの両目から一筋の涙が流れ出す。
と、減少の暗示は主人公の気配を感じた。
「パパ! 主人公です!」
「こんな時に!」
彼女は自分の〈主人公の気配〉を0にまで減少している。
さらに見た目は完全に人間の少女。
なのになぜ?
「見ーつけた。正義の暗示、悪者に挨拶して」
高校生ほどの右目がギョロギョロと動く青年セイギと特撮のヒーローを思わせる赤い戦士正義の暗示が階段を下りながらこちらに向かって来る。
「俺の名は正義の暗示、意味は正義、不安定、悪の絶対排除だ。さあ、お前も返してもらおうか。名前とその意味を」
ベルトのスクリュー部分から銀色に輝く光線銃、シューティングシルバーを右手で取り出し、減少の暗示に照準をゆっくりと合わせる。
「なんで、なんでお前は…………」
「主人公の気配はしなかった。しかし、彼女の悪のレベルはAだった。俺達にとって正義を執行するには十分な理由だ」
理不尽な理由を言い放つ赤き戦士に、彼女は父を守るため、口を開く。
「私の名前は減少の暗示意味は減少、すべてのものを選択、消え行く諚です」
その発言を引き金に正義の暗示は「スピードアップ」と口にし、右サイドスイッチを叩き、足の血管を浮き上がらせ、距離を詰めながら射撃を行うのだった。




