第22話 思い出の場所は事件現場に
主人公 撲滅に自衛隊が乗り出して3日、ヒメは軍勢の暗示を警戒しながら学校に向かっていると、廃墟になった図書館が目に止まる。
この図書館は昔賑わっていたが、建物自体が古くなり、所有者が維持費を払えなくなったこともあって2年前廃墟になった。
彼女らにとってここは思い出の場所である。
「救いの暗示、ここであなたと会ったんだよね。懐かしいなぁ」
『そう、私の物語が書かれた本を買ってくれたあの日。選んでくれてとても嬉しかったわ』
2人は思い出に浸りながら、学校に行こうとする。
しかし突然ヒメの意識が飛び、目の前が真っ暗になった。
『ヒメ!…………ヒメ!…………ヒメ!』
救いの暗示の声で彼女は唸りながら目を覚ます。
「う、うーん。ここは、図書館の中?」
『なにをとぼけてるの? 自分からここに入って、突然気絶したんじゃない』
「えっ? 私そんなこと覚えてない」
噛み合わない話し合いをしていると、主人公の気配を感じ、救いの暗示はスクールバッグの中の〈救いの殺人〉から飛び出し、次元の裂け目からサバイバルナイフを左手で、ハンドガンを右手で取り出すと、膝を落とし戦闘体勢に入る。
「気をつけてヒメ、この建物の中に主人公が2体いる」
「2体!? 絶対不利じゃん!?」
ヒメが驚きで大声を出すと、金属が擦れる音が聞こえてきたと思えば、段々と近づいて来る。
「ヒメなに大きい声出してるの? 敵をあぶり出す作戦なのかしら?」
目を細め皮肉を言いながら、音の方へ視線を向ける。
「そんなつもりは…………」
「大丈夫。私が絶対守るから」
金属音がどんどん大きくなってくる。
位置がバレた以上、ここから離れなければならない。
気配で相手の位置を大まかに感じ取る。
「こっちよ」
彼女の指示に従い、ヒメはゆっくりとその場から移動する。
この図書館は2階が存在し、記憶の限りここは参考書や小説など難しい本がずらずらと置いてある2階だ。
「ヒィ!?」
そこにあったのは死体の数々。
矢で射抜かれた者、両断された者、炎で炙られた者、頭がない者。
その恐ろしく残酷な光景に、足がガクガクと震え、すぐにでも逃げ出したくなる。
「これ、みんな主人公の被害者なんだよね。惨すぎる」
「この異臭からして1年ぐらいは放置されてるわね。マスターは主人公の力で人を誘い込み、2体目に殺戮をさせている。今の現状だとそう考えるのが妥当だと思う」
救いの暗示がここまで死体の状況や敵の戦術に詳しいのか、それは物語での主人公の影響である。
戦場での戦いにおいて戦術を見極めるのは重要だ。
パターンを知っていればそれだけ素早く仕留めることができる。
「とりあえず階段を探さないと、主人公がこっちに来る前………」
その続きを言おうとした瞬間、金属音がいきなり近くなる。
「そこかぁ」
低い男の声と共に左側の棚が倒れ始め、2人に襲い掛かる。
救いの暗示は右足を踏みしめ、一気に加速、ヒメをお姫様抱っこし、倒れる棚を躱す。
「逃すかぁ!」
叫びを上げ、主人公は暗闇に消えると、突然目の前に現れ、チェーンソーを振りかぶり、彼女らを両断しに掛かる。
しかしすぐにその動きを理解し、右にサイドステップ、回転する刃を躱した。
ヒメを降ろし、ハンドガンの銃口を主人公に向け、戦闘体勢に入る救いの暗示。
銃口の先にいるのは全身が黒く、のっぺらぼうな大男。
チェーンソーを次元の裂け目に入れると、今度は鉄の矢が取り付けられたボウガンを取り出した。
「一応聞いておくわ。私は救いの暗示あなたの名前は?」
「俺の名は残酷な映画の暗示、マスターの指示でお前を殺しに来た」
ボウガンの矢の先を救いの暗示に向け、左手で位置を固定、右手でトリガーを弾く。
(遅い)
矢の軌道を見極め、サバイバルナイフを右斜めに振って弾くと、ハンドガンの銃口を残酷な映画の暗示の腹に向けて連射する。
銃弾は腹を貫通し、風穴が開くが「それがどうした?」とすぐに体の穴が塞がっていく。
「残念ながら俺は不死身だ。スプラッター映画において撃退される殺人鬼もいれば、何度も復活する殺人鬼もいる。俺はその後者だ」
彼はボウガンを次元の裂け目に入れると今度は手袋型の鉤爪を取り出し、左手にはめる。
再び暗闇の中に姿を消し、ヒメの後ろを取る。
(このマスターが死ねば主人公は次の持ち主を探し始める。このままマスターの物にしてやる)
マスターを失えば主人公はライトノベルに戻っていく。
そして新しいマスターが現れるまで待機する。
そうなれば残酷な映画の暗示のマスターへ所有権が渡る。
(もらった!)
刃で突き刺そうと左肘をバネにし、勢いよく腕を伸ばそうとした。
しかし、突然体が動かなくなり、金縛りの様な状態になる。
「ダメだよ〜。主人公同士で争うなんて〜」
この軽く可愛らしい声。
次元の裂け目から現れたのは、支配者の暗示と魔法陣が身体中に刻まれ、赤いハチマキを巻いた黒人の少年だった。
ヒメが後ろを振り返ると残酷な映画の暗示の姿があり、恐怖で悲鳴を上げながら救いの暗示を思わず前から抱きしめる。
「ヒメ、大丈夫?」
「もう嫌だよー! もう無理! マジ無理だからー!」
戦いには慣れているとは言えここまで追い詰められれば弱音を吐きたくなるだろう。
「救いの暗示とそのマスター、大丈夫だった〜? まったく残酷な映画の暗示〜。主人公狩りはいけないことだって何回も注意してるよね〜。なんでまたやってるの〜」
「マスターの命令だ。それ以上は言えない」
残酷な映画の暗示が真実を告げないので、彼女はにこやかな表情を絶やさず喋り出す。
「あなたが言うマスターは人じゃない。この図書館に住まう怨念の集合体……………」
「黙れー! マスターは俺を選んでくれた! 誰も最後まで読まなかった俺の物語を読んでくれたんだ!」
いきなり発狂した彼の発言に、ヒメの中で 救いの暗示のあの言葉が過ぎる。
「あなたが私のマスター? いえ、マスターなんでしょ。絶対そう。だって私が選んだんだもの」
主人公はマスターに依存する傾向があることを、彼女は思い出すのだった。




