第15話 怒りの拡散
シゲルはセイギとの会話を始めると、年季が入ったベンチがギシギシとなる。
「まず自分の主人公をどう思ってる? 俺は相棒として見てるが」
「俺も正義の暗示とは相棒として悪を倒してもらってます」
〈正義の殺人〉をスクールバッグから取り出し、セイギは表紙を見て今まで殺させた被害者の悲鳴を思い浮かべ、ニヤニヤする。
殺しに対してためらいがないのが表情で分かったシゲルは、自分の正義と大体変わらないと感じる。
探偵とは唄っているが、やっている依頼は殺し屋と変わらない。
情報を集め、主人公と共にターゲットを殺害する。
自分は仕事としてだが、セイギは使命として悪である人間を殺害しているのが理解できた。
「セイギ君は自分の信念を貫いているんだな」
「はい! 俺、正義の暗示とこれからも戦っていきます!」
ハキハキと喋るセイギに、笑みを浮かべ、ハット帽を深くかぶり直す。
「そう言えば帽子を頻繁に深くかぶり直しますけど、なんでですか?」
その質問に対し、「あー、それはな」と笑みを絶やさず返答しようとする。
その時だった。
突然巨大な4本足の白い鱗を持つドラゴンが現れ、口から眩い光をため始める。
「主人公!」
セイギは〈正義の殺人〉のページを開くと、正義の暗示が召喚される。
「セイギはとにかく離れてろ、俺とシゲルの主人公で片付ける」
「正義の暗示、お前はだいぶ勘違いをしているようだな」
「「???」」
2人が目を丸くし不思議そうにしていると、彼は〈変身の殺人〉をジャケットの胸ポケットから左手で取り出し、主人公を召喚する。
その姿はまるで特撮ヒーローが付けている物を彷彿とさせるベルトであり、なにをするのかが察しがついた。
「変身」
主人公の右サイドスイッチを右手の平で押す。
すると黒い装甲に肉体が変貌し、赤い複眼が2つ輝く。
2本の角が生えたその姿。
その状態で力強く拳を右手で作る。
「フン!」
右足を踏みしめ、高く飛び上がる。
ドラゴンはそれに合わせて照準をシゲルに向ける。
その隙を突き、正義の暗示は左サイドスイッチを叩く。
エネルギーが右拳に伝達されつつ、敵に向かって走り出す。
すると策に感づいたドラゴンは翼で高く飛び上がり、上空で正義の暗示に向けて口から光線を撃ち放つ。
「スピードアップ」
攻撃を躱され、光線が迫る中、右サイドスイッチを叩く。
血管が浮き出てくると、一気に加速し、セイギを抱え、全速力で躱す。
「あいつ、いきなり現れて自己紹介もせずに仕掛けてくるなんて」
不意打ちとも取れる主人公の行動に、動揺するセイギ。
それもそのはず。
あとがきにはこう書かれている。
『もし主人公同士で戦闘が行われた場合、礼儀として自己紹介をしなければならないと言うルールが存在します。主人公はそのルールを守り、行動することが義務づけられています。ですので自分の主人公には不意打ちなどの行為をさせないでください』
と書かれていた。
前回の戦いで正義の暗示が自己紹介をしていないのを知り、怒ったのをよく覚えている。
地面に豪快に土埃を立てながら、降り立つドラゴン。
「我が名は放出の暗示、意味は放出、破壊光線、龍の姿をした兵器だ」
放出の暗示と名乗った主人公の遅れた自己紹介に、セイギは怒りを覚える。
今更言われたところで、不意打ちをしてきたことを許すことはできない。
「改めて、俺は正義の暗示、意味は正義、不安定、悪の絶対排除だ」
正義の暗示がセイギを降ろしながら自分の自己紹介を済ませる。
「すまない、マスターに不意打ちを仕掛けろと言われている物でな」
マスターの指示、それでも許せない。
「正義の暗示、君は確かにルールを破った。でもそれは侮辱されて意味の不安定がそうさせたんでしょ?」
「あいつらは俺達の正義を否定した。だから我を忘れてしまった。セイギ、申し訳ない」
自分の失態を否定することなく、謝罪をする正義の暗示に、セイギは歯をくいしばる。
(違うんだよ! 違うんだよ正義の暗示! 俺は相棒である君に謝罪を望んでいる訳じゃないんだよー!)
自分の中では正義の暗示を激励したつもりで言ったのだが、逆に戦意を減少させてしまった。
自分の考えとは違う結果を生んだことに苛立ちを感じる。
(これは確かに俺のミスだ。でも自分に対してじゃなくって、正義の暗示にイライラしてる。その理由は分かってる)
苛立ちを覚える理由があまりにも理不尽なのは自分でも理解している。
彼が学校の殺戮を正義の暗示に頼んだ理由も、いじめっ子を消してやりたいと言うわがままとも取れる物だった。
(信念を貫いてると言われた。でもそれは間違いなんだ。俺はただ苦手だったり嫌いだったりする人を殺させている最低な奴。自覚はある。偽りの正義なんだって)
正義の暗示には正義を語っておきながら悪の部分を隠していることがセイギの胃に来る。
一方で着地したシゲルの主人公が口を開く。
「我の名は変身の暗示。意味は変身、変貌、世代交代の可能性なのだ〜」
可愛らしい少女の声で喋る変身の暗示にシゲル以外の者達はその意外性に目を丸くするのだった。




