第14話 謎の探偵
正義の暗示は悪を倒すために存在している。
しかし前回の戦いで悪に完全敗北を喫した。
自分にもっと力があれば、そう思いつつ、〈正義の殺人〉の中で傷を癒していると、セイギが古本屋を物色していた。
そこには分厚い特撮のキャラクター図鑑があり、値段を確認する。
フルプライスで税抜き3000円、現在の値段で税抜き2500円だった。
(割に合わないな、これは安くなるまで我慢しよう)
お小遣いの事を考え、図鑑を棚に戻すと、収穫がないまま帰ろうとする。
家は歩いて10分ほど、おやつの時間には間に合うだろう。
だが「ちょっと待ってくれ」と男性の声に呼び止められる。
後ろを振り返ると、そこには古めかしい服装をした黒いハット帽の20代男性がゆっくり近づいて来た。
白いシャツに赤いネクタイ、黒いジャケット、グレーのズボンを皮製のベルトで止めている。
怪しい風貌をした彼を見たセイギは目を細め、警戒の思考に切り替える。
「俺はコウハシゲル、探偵をしている者だ。ほれ名刺」
名刺を貰い、一応確認する。
そこには電話番号と名前、そして事務所の名前が記載されている。
「探偵であるあなたが俺に何の用ですか?」
シゲルは良くぞ言ってくれたと言わんばかりに右手でライトノベルを胸ポケットから取り出す。
「そっ、それは!」
思わず指指したのは、自分が持つライトノベルと同じ作者〈ミカイテルオ〉の物だった。
「そう、これは〈変身の殺人〉。俺の相棒が入ってる」
拳銃を向けられた様な、そんな危機感がセイギの中で恐怖に変わる。
正義の暗示がまだ修復できていない状況で、主人公狩りに遭遇するとは。
(こっ、殺される!?)
そう思った瞬間、後ろを振り返り、逃げ出そうとする。
自分は正義の暗示がいなければなにもできない。
それを痛感させる様にシゲルの手に肩を掴まれ、ぐるんと顔を向けさせられる。
「落ち着け、俺は君と戦おうなんて一言も言ってないぜぇ」
「ウソをつくもんじゃないですよ!? あなたは〈変身の殺人〉に住まう主人公で俺達を…………」
セイギの発言を遮るように正義の暗示が痛みに耐えながら、唸り、口を開く。
『こいつは…………俺達と同じ正義の持ち主…………だ…………』
「殺戮者であり正義の味方。矛盾しているが、まあ俺達もそう変わらないな」
シゲルは〈変身の殺人〉を胸ポケットにしまい、右手でハット帽のツバを持ち、深くかぶり直す。
「俺は探偵業をしているが、裁く時は裁く、悪が無くなれば良いと思っているのは君だけじゃないことを知ってほしい」
左手をセイギの肩から離し、ため息を吐いた。
自分は仲間だと証明したいのだろう。
しかしセイギは少し気がかりの事がある。
それは〈変身の殺人〉の主人公がどんな姿で、どんな能力を持っているのか。
彼はどんなものにでも変身できる変装系の主人公だと予想する。
「シゲルさん、あなたとはウマが合いそうです。探偵と言うぐらいですから俺の学校を知ってますよね?」
「あぁ、名前、住所、あらゆることを俺は情報として持ってる」
頭の中で悪知恵を働かせ、彼は「なるほど」と微笑む。
「じゃあ、来週の月曜に学校で落ち合いましょう。その時にゆっくりと話を聞きます。こちらにも約束事がありますので」
「分かった。セイギ君の都合も聞かずに突然話しかけてすまない」
「良いんですよ。ではまたその日に」
笑みを絶やさず、後ろを振り返ると、手を振って歩き出すのだった。
月曜日、放課後になり、セイギは友達に別れを告げ、急いで靴箱から靴を取り出す。
校庭に出ると、校門の前でシゲルが待っているのを確認し、偽りの笑みを浮かべ、「シゲルさーん」と右手を上げ、大きく振りながらそちらに向かう。
「すいません。待たせてしまって」
「いや、ほんの5分ちょっとだ。気にすることはないぜ」
シゲルはそう言って微笑むと、ハット帽を深くかぶり直す。
「少し待っててください、親に用事があることを電話するので」
スマホをスクールバッグから取り出し、母に電話をかける。
「あーもしもし、お母さん。今日は友達の付き合いで遅くなるから、うん、お菓子はなしでいいよ。うん、じゃあね」
通話を切ると、スクールバッグにスマホを戻し、サムズアップする。
「よし、じゃあこの近くの公園で話をしましょう」
「分かった。情報共有をしつつ今後の主人公や悪を持つ者に対して対抗策を考えたいんだが、いいか?」
シゲルの問いかけに、首を縦に振る。
「そうですね。俺達は共通の敵を持って行動している。ならば組んだ方が得策でしょう」
2人は話し合いを終え、公園へ向かう。
シゲルの本心はどうなのか。
本当に正義を語るだけではない男なのか。
セイギは試そうとしている。
彼の相棒である主人公がいかほどの者か。
そんなことを考えている間に公園に到着する。
木製のベンチに2人共座り、情報共有を始めるのだった。




