第13話 救出の赤い瞳
炎の熱さに苦しみながら立ち上がる刃の暗示に、炎の暗示は容姿なく口からガソリンを吐き、引火させ光線の様に放つ。
それに対して彼女は右サイドステップで躱し、次元の裂け目から大剣を飛び出させ、あらん方向に撃ち放つ。
(どこを狙ってやがる)
放火魔の主人公が火炎弾を放とうとする。
するとさっき放たれた大剣が出入り口であるドアを突き壊し、炎に燃える会場内が見える様になる。
(なるほど、逃げ道を作った。もしくは戦うスペースを広げたか。どちらにしろ消防隊が来るのは当分先だ。マスター、待っててくれよ。すぐに終わらせる)
火炎弾をさらに大きくし、刃の暗示に発射、さらに追い撃ちで小型の火炎弾を次々に乱射する。
その時だった。
突然騎士はお姫様抱っこされ、火炎弾を避けることに成功する。
救った救世主。
それは白髪の少女、救いの暗示だった。
少女はゆっくりと刃の暗示を降ろし、次元の裂け目からサバイバルナイフとオートマチックガンを取り出す。
「救ってくれて感謝する」
「命令で動いているんだから、感謝するならマスターにするのね」
無表情で感謝を拒絶すると、銃口を炎の暗示に向け、トリガーを弾く。
1発の銃弾は足の腿部分に命中する、が、「それがどうした!」とケラケラと笑われる。
「もう今の常識なんて関係ねぇ! 皆殺しにしてやる!」
時間に余裕がなくなり、炎の暗示はガソリンを大量に撒き散らし、引火、大爆発を引き起こす。
炎に包まれる彼女らだったが、火傷に耐える。
「このままではナイツが危ない。ここから脱出する」
気絶しているナイツを刃の暗示はおんぶし、救いの暗示と共に会場裏を出る。
燃え盛る会場内を出ようと走るが、放火魔も必死にジェット噴射で追いかけて来る。
会場の出入り口のドアは救いの暗示が蹴破っており、煙に包まれながら脱出した。
フルアーマーを解除し、煙が立ち込めるビルを脱出しようとすると、消防士達が駆けつける。
「生存者を2名確認しました。これより救助します」
刃の暗示はその発言に疑問を感じる。
だが辺りを見回すと、そこには白髪の少女の姿はなかった。
(ありがとう。あなたのおかげで本当に助かった)
救いの暗示に感謝の意を込め、消防士達に外まで案内される。
おそらく狙っているのはサーカス団の人間。
消防士には手を出さないだろう。
2人は救出され、救急車で病院まで運ばれるのだった。
数分後、ブックエスケープで〈救いの殺人〉に戻った救いの暗示はお土産を購入しているヒメに対して、お怒りの表情で頬を膨らませる。
(ヒメ、あなたって人は…………)
友達なら心配してくれても良いのに。
そう思っていると、ヒメが微笑みながらこう言った。
「救いの暗示と一緒に食べるのに少し多すぎたかなぁ?」
その発言に彼女は自分の勘違いに気づく。
自分は友人として、主人公として恵まれているのだと。
(フフ、楽しみに待ってるわね)
火傷の痛みと、ホッとした拍子に横に倒れ、眠りにつくのだった。
一方その頃ブックエスケープで〈炎の殺人〉に戻った炎の暗示は、マスターである20代の男性に現状を報告していた。
「良くやった炎の暗示、これであのサーカス団は壊滅だ」
『2人取り逃がしたがどうする?』
その発言に対して男性は「フン」と鼻で笑う。
「2人ごときにサーカス団を再建できない。終わってんだよ。あいつらはよぉー」
なぜ彼が炎の暗示にこんな惨劇を繰り返させているのか。
それは数年前、サーカスへ行った恋人である女性が事故にあい、死亡したことへの逆恨み。
事故の発端は飼育していた馬が炎の輪を見て暴れ出し、炎のショーで使われるガソリンに引火、会場に燃え広がり、大炎上した。
(サーカスなんて物があったからあいつは死んだ。絶対に俺は許さない。娯楽を悲劇に変えたあいつらをなぁ)
事故だとは分かっている。
だが恋人を殺したのはサーカスなのだと決めつけなければ気が済まない。
それほど気が動転し続けているのだ。
(炎の暗示さえいれば俺は復讐し続けることができる。待っててくれよ。俺が必ずサーカスをこの国から無くしてやるからな)
そう思いながらズボンの左ポケットからスマホを取り出し、ネットニュースを確認する。
そこには炎の暗示が火事を起こしたビルのニュースが早速載っている。
「ザマァないぜ。炎の暗示、行くぞ」
『マスターの仰せのままに、てな』
歩みを進め始めると、人混みに紛れて逃走しようとする。
その時だった。
「うん? 俺はなにしにここに来たんだっけ?」
『なにを言ってんだマスター。俺達はサーカスに復讐しに………』
突然消去されていく記憶。
そして〈存在〉を消されたなにか。
ぽっかりと空いた記憶に違和感を感じつつ、その場を後にした。
男性の背後には黒いシャツにベージュのズボンを履いた減少の暗示とそのマスターである30代ほどの男性、カワギケンイチがお土産が入った紙袋を持って立っていた。
「これでまた消えました。パパ」
「そうだね。偉いぞ減少の暗示」
ケンイチは我が子の様に育てきた減少の暗示の頭を撫でる。
その行為に、喜びを感じる彼女の表情は笑顔で満ち溢れていた。
「さあ、お土産も買ったし、帰ろうか」
「はい! 今日はとても楽しかったです!」
なにもなかったかの様に2人は手を繋いで、歩いて行く。
いや、実際になにもなかった。
そうこの世界は認識している。
残ったのはサーカス団が1つ火事で無くなったことだけだった。




