第12話 サーカスナイフ投げ
今日はサーカスを見るために電車で都会にやって来た。
会場ではライオンや馬、ゾウのショーなどが行われた。
見せ場はなんと言ってもナイフ投げ。
ピエロの男性が回転する丸い板に拘束された状態で、金髪で青い瞳の女性が当たらない様にナイフを投げる。
回転が止まり、よく見ると投げられたナイフは男性のギリギリの位置に刺さっている。
大喝采で幕を閉じると、ヒグラシ家は遅いお昼を食べるため、駅ビルのファミリーレストランに入る。
「ちょっとトイレ」
ヒメは女性トイレに入り、洋式に座ると救いの暗示と会話を始める。
『あのサーカスのナイフ投げの女性、主人公に間違いない。おそらくマスターはあのピエロだと思う』
「なんでピエロがマスターなの? 他にも候補はいるんじゃない?」
質問に対し、救いの暗示は一瞬口ごもると、再び口を動かす。
『あのピエロには主人公の気配がベタリ染み付いてた。あれは体を密着させていやらしいことしてないとあーはならないわ』
「それぐらいマスターと主人公との信頼関係が築かれてるってことでしょ」
呆れた様子でヒメは洋式から立ち上がり、自動で流れる水を確認し、手を水道場で洗うと、救いの暗示の発言を思い出し、ため息を吐きながら親の元へ向かうのだった。
一方その頃、サーカス団では明日のショーに向けて準備をしていた。
ピエロの30代男性、ナイツレイザンは舞台裏の横に長い木箱に座り、差し入れのカンに入ったブラックコーヒーをストローで飲む。
するとナイフ投げの女性が硬い表情で隣に座った。
「刃の暗示、今日もさすがだったぞ」
「当然の事だ。それよりナイツ、団長は何を考えてるんだ? 最近サーカス団を狙う放火魔がいると言うのに」
刃の暗示の心配そうな表情に、ナイツはブラックコーヒーを飲み切る。
「俺達はただ演じてれば良い。人を喜ばせるために自分の感情を押し殺す。たとえ放火魔が来ても、刃の暗示なら追っ払ってくれるだろ」
「もちろんだとも。任せておけ」
笑顔でグータッチをする2人に、ゆっくりと近づいて来る魔の手。
広げた左手をナイツに向けようとする。
しかし後ろから大量のナイフが襲いかかり、体に突き刺さる。
「随分と手荒い歓迎じゃないか。まさか主人公がサーカスにいるとはなぁ」
消防士の格好をし、ガスマスクを付けた男は神経がないのか、不敵に笑いながら再び左手をナイツに向けようとする。
「みんなを連れて逃げろナイツ! ここは私が引き受けた!」
刃の暗示はナイツに指示をすると、本来の騎士のフルアーマー状態になり、次元の裂け目から剣を2本取り出す。
「分かった! 頼んだぞ!」
走り出す彼はその場を出ようとドアを開けようとすると、ドアノブがとんでもない熱さになっており、素早く手を離すと、火傷した痕ができていた。
「まさか、俺達以外…………もう…………」
おそらくドアの先は火の海になっているのだろう。
それを知った途端ナイツの思考が絶望に染まった。
「よせよ。主人公同士では戦わない。それが今の常識だろ?」
「このサーカス団を狙った時点で、お前の死は確定している!」
剣をX字に重ねた状態で構え、突進して来る刃の暗示に対して、主人公は足裏から炎を放出し、上空へ飛ぶ。
「あーそうかい。これもマスターの命令だ。ここで燃え死にな」
マスターの命令通り、右手で次々に火炎弾を放つ。
燃え上がる炎が広がる舞台裏。
するとスプリンクラーが作動し、炎を消していく。
(ふん、これぐらい想定内だ。味わってもらうぜぇ。俺の炎のショーをなぁ)
主人公は床に左手を突きながら着地し、「フフ」と笑う。
「なにがおかしい!」
刃の暗示の激怒っぷりに、立ち上がりながらガスマスクを右手で外す。
次の瞬間、消防士姿の男が爆発を引き起こし、爆風でナイツと彼女は吹き飛ばされ、壁に打ち付けられる。
「俺の名は炎の暗示を意味は炎、火の海、本来の力だ」
焼け落ちた消防士の服から炎に包まれた黒い骸骨が現れる。
炎の暗示と名乗った主人公は、刃の暗示に向けて口からガソリンを吐く。
ガソリンは炎に引火し、爆裂する光線となる。
スプリンクラーが爆発によって破壊され、機能が停止した状態で光線をまともにくらった。
「悪いな、これもマスターの命令なんでね」
炎に包まれる彼女の体。
だが怒りによって火傷の痛みなど失せた。
「許さん…………お前は…………ここで倒す!」
4つの次元の裂け目から鎖鎌を射出し、炎の暗示を拘束する。
しかし炎の熱で徐々に溶けていく。
そう、徐々にだ。
その隙を見逃さず刃の暗示は2本の剣を敵に向けて投げつける。
さらに次元の裂け目からバトルアックスを取り出し、足を踏みしめ走り出すと、距離を詰めにいく。
剣が炎の暗示の肋骨に命中するが、強度が高く、床に叩きつけられる。
「その頭をカチ割ってくれる! この私の手で!」
振り下されるバトルアックスを、彼は口から光線を放ち吹き飛ばす。
床に突き刺さったバトルアックスを見て、溶けた鎖を引きちぎり、刃の暗示に巨大な火炎弾を放ち、壁に再び打ち付けた。
「無駄だ。刃が炎に勝てるかよ」




