第11話 ヘルプとの出会い
あれはヒメが中学生1年生の頃、図書館で在庫処遇が行われており、少ないお小遣いで当時流行っていたライトノベルが読みたくなり、〈救いの殺人〉を購入した。
漢字がこの歳では難しく、辞書で調べながら読み進めていった。
一人っ子である彼女だったが、厳しく育てられ、その反動から寂しさを感じていた。
友達もでき、ようやく学校に慣れてきた今日この頃、〈救いの殺人〉を読み終え、友達と教室から帰宅しようとした時、教師と生徒達が次々に咳き込みながら倒れていく。
「どうしたの?」
体を揺するが返事がない。
「みんな?」
この状況に頭に過ったのは、助けを呼ぶことだった。
「は、早く警察に」
スクールバッグから見守りケータイを取り出し、警察に電話をかける。
繋がった。
「もしもし、警察ですか?」
「はい、こちら警察署です。何かありましたか?」
授業で習った通りに言えばきっと警察は来てくれる。
そう信じて質問に答える。
「えーと、〇〇学校の1年2組の教室でみんなが咳をしながら倒れちゃったんです」
「分かりました。救急隊に連絡しますので、あなたは教室で待っていてください」
「よろしくお願いします」
通話を切り、安堵していると、ドアからガスマスクを付けた男が覗き込んでいた。
「まさかここに主人公のマスターがいるとはなぁ。まあ俺が手を下すまでもない。さっさと金を奪ってトンズラさせてもらうかねぇ」
自分を見て男はそう言いながらダルそうに立ち去った。
(あの人が犯人なのかな? でも警察ならなんとかしてくれるよね)
自分ではどうにもできないことは理解していた。
だから待った。
待ち続けた。
しかし日が落ちかけても救急隊は来ない。
「どうしたんだろう? もう6時になるのに」
時計を確認し、しびれを切らすと、スクールバッグを持って教室から出てみる。
靴置き場に向かうと、そこには…………
なんと救助隊員が全員倒れていた。
息を引き取っているのか、まったく呼吸をしていない。
悲鳴を上げ、校庭に出ると、そこにも遺体が。
(どうしてみんな死んじゃうの!? なんで私だけ生きてるの!?)
恐怖で錯乱していると〈救いの殺人〉の内容が思い出される。
戦場に巻き込まれた平民の主人公の少女が、神に救いを求めながら自軍の兵士を治療していた。
そんな中で彼女は誘拐され、少年兵として育てられた。
重い拳銃を持たされ、自軍の兵士を殺す。
やるしかなかった。
神は自分を見放したのだから。
「私だけ神様に救われたって言うの!? 置き去りされる気持ちも知らないで!?」
もし神があの少女を救っていたら、そう思うと自分の幸運を素直に喜べなかった。
そんな時、目の前に彼女が現れた。
その姿はまるで〈救いの殺人〉に出て来る主人公のイラストにそっくりな白髪の少女が立っていた。
少女はなにやら嬉しそうにこちらを見つめている。
するといきなりこちらに見えないスピードで近づいて来て、抱きついて来た。
「あなたが私のマスター? いえ、マスターなんでしょ。絶対そう。だって私が選んだんだもの」
ハイライトが消えた瞳で見つめてながら、早口で意味不明な事を喋る彼女に、突然の事で動揺を隠せず、瞳をグルグルと回し、抱きつく手を外そうとする。
しかし、あまりの力に外せず、笑みを浮かばれる。
「離さない。マスターは私の神様なんだから」
その発言に、物語の負の連鎖がまた始まる気がして、こう述べた。
「私はあなたの神様なんかじゃない。そもそも私は神様でもない。ただの人間なんだよ」
少女はそれに対して首をひたすら横に振る。
「そんなことない! じゃなきゃ私はここにいないもの! 救ってくれたんでしょ! 絶対に離さない! マスターは私を…………」
「そんなのあなたがただ思いこんでるだけでしょ!」
激怒された彼女の表情は驚きとつらさで歪んでいる。
涙が溢れ出し、泣き叫び始めた。
その思い込みの激しさ、あのライトノベルの主人公にそっくりだ。
彼女を救ってあげたい。
そんな想いがヒメの中で込み上げてくる。
「大丈夫。私は神様じゃないけど、友達にはなれる」
「トモ…………ダチ?」
不思議そうに顔を見つめてくる少女に、笑みを浮かべ、首を縦に振る。
「そう、友達。私とあなたは同じ立場なの」
「マスターと、同じ立場?」
マスターと言い続けるので、恥ずかしくなり、顔を赤らめる。
「マスターなんて恥ずかしいよ。私の事はヒメって呼んで。あなたの名前は?」
ヒメに名前を聞かれ、少女はようやく泣き止み、ハイライトが点いた時、自分の名を言う。
「私の名前は救いの暗示。ヒメ、私はあなたが望むことをする。たとえそれが人殺しでも」
「人殺しは絶対しちゃダメ。友達にそんなことさせるのは最低の事だよ」
人を殺すことはやってはいけないこと。
教わったことをただ言っただけだが、それに対して救いの暗示は「どうして?」と質問してくる。
「どうしてって」
迷った挙句、好きだったドラマのセリフを引用する。
「その人が死んだら、悲しむ人は出てくる。いなくても殺したあなたに私は失望する。救いの暗示、友達ならなんでもして良い訳じゃないの。分かった?」
彼女達は約束した。
決して人を殺さないと。
その後分かった事だが、救いの暗示の様な者達が存在し、殺しを望み、命令で殺人を繰り返していると。
名を主人公。
彼らをヒメは許せなかった。
矛盾だってことは理解してる。
しかし彼女ら主人公を倒すために動くようになった。
支配者の暗示と会うまでは…………




