第10話 笑いの仮面の裏に
爆裂する殴りの暗示は紅蓮の炎に包まれながら、お城の様な遊具に激突した。
「グッ…………」
「殴りの暗示兄貴!?」
手刀打ちの暗示は兄弟の名を叫ぶと、視線を正義の暗示に移し、口部分をクラッシャーオープンさせる。
「お前達の様な悪はここで倒す。いくぞ!」
正義の暗示は「トォー!」と高く飛び上がり、病原菌の暗示の背後を取る。
ブレードゴールドを持つ右腕を左斜めに振るおうとする。
しかし手刀打ちの暗示が首元にチョップし、意識を遠のかせる。
「お前に正義を語る資格はない。ここで寝てろ」
その発言に彼の中で怒りが込み上げてくる。
遠のいていた意識が一気に覚醒し、口部分がクラッシャーオープン。
左足を踏みしめ、首をさまざまな方向に振り、吠えながら後ろを振り返り、ブレードゴールドを振り下ろす。
ビームの刃をバックステップで軽々と躱し、手刀打ちの暗示はサイドステップをしながら蹴りの暗示と共に正義の暗示を挟み撃ちにする。
「フン!」
繰り出される右足による蹴りを彼は左腕で受け止める。
「しまった!? 思わず!?」
気づいた頃にはもう遅い。
アンカージャッキが起動し、左腕に亀裂が走り、吹き飛ばされる。
さらに手刀打ちの暗示の左手によるチョップが背中に命中、アンカージャッキが起動、亀裂が広がっていき、再び吹き飛ばされる。
転がり倒れる正義の暗示は立ち上がりながら滴り落ちる血に自分の負けが映し出されている気がして〈不安定〉がますます深刻化する。
(俺が負ける? ありえない。俺はヒーローなんだ。セイギは言っていた。ヒーローは必ず勝つ。どんな敵であろうとも!)
興奮で震える左手で左サイドスイッチを叩くと、スクリューが回転し、右手に持つブレードゴールドにエネルギーが伝達される。
「ウヲォーーーーーーーーーー!」
蹴りの暗示に突っ込んでいく無謀な行為。
4対1のこの状況で勝てる訳がない。
たとえアタリだとしても、フツウの主人公 4人掛かりでは対処できない。
病原菌の暗示の射撃をくらい、3人のアンカージャッキ一斉攻撃をくらい、大きく吹き飛ばされながら大量の血が溢れ出す。
正義の暗示はたまらずブックエスケープを使用し、その場を逃走した。
「なんとかなったな」
蹴りの暗示は安堵で息を荒くしていると、病原菌の暗示がとんでもないことに気がついた。
「金の暗示がいない!」
「「「えぇー!?」」」
おそらくどさくさに紛れてこの場から逃げ出したしたのだろう。
慌てて金の暗示を探し回ると、病原菌の暗示が気配を感じ取り、逃走経路をたどる。
「ここからずっと気配が続いてる」
「良し、そう遠くには行ってないはずだ。追いかけるぞ」
「「分かったぜ蹴りの暗示兄貴!」」
4人は公園を急いで出ると、金の暗示を連れ戻しに向かうのだった。
一方その頃、金の暗示は全速力で下水道を走っていた。
(あんな目に合うなら1人で逃げていた方が良かった!?)
今日は不幸続きだと感じる。
(あともう少し、あともう少しでマスターの元へ!)
だがそれもここまで。
ブックエスケープが使用できる範囲にあともう少しでたどり着く。
(ブックエスケープの範囲! 今です!)
ブックエスケープを使用し、その場を脱出した。
これでマスターの元へ戻れる。
そう思っていた。
そこは警察が押収した証拠物をマスコミが撮影する、言わば自分がテレビに映ってしまう場所。
(まさか。ウソです。証拠は一切残していない。警察がマスターを逮捕するなんて、一体何が?)
彼は知らなかった。
マスターである男性の違法建築した家が警察に見つかってしまったことを。
そしてその主人がマスターだとバレてしまい、逮捕されたことを。
しかしそれを金の暗示に知る術はないのだった。
ニュースで10数秒間だけ流れるホームレスの逮捕される姿。
それは忘れられて当然の事件。
ヒメはこの事件に関して無関心だった。
主人公の仕業ではないと思ったからだ。
そういえば次の休みの日はサーカスに行くことになっている。
あまり興味はないが、母と父に気晴らしにと仕方なく着いて行く。
(どうせ自分達が行きたいだけだろうけど)
晩ご飯を食べ終え、「ご馳走さま」と手を合わせる。
食器を洗い場に置き、リビングに戻ると、近くの町で突然ウイルスが発生し、次々に人が亡くなった事件の現場が映し出される。
これに関して彼女は主人公の仕業だと確信する。
なぜならその犯人の正体を知っているから。
鮮明に覚えているあの惨劇を。
(主人公、そしてそのマスターはどうして人を殺すことをやめないの? ウイルスなんて防ぎ切れない物を使ってまで………主人公は確かに生きてる。でも、でもその生き方は絶対に間違ってる)
現実で人を殺すことは罪である。
それを簡単に上書きする主人公達は決して罪を償うことなくマスターの命令に従い次々に人を殺戮する。
それをただ悔しくも放っておくしかなかったのだった。




