第1話 悪の選別
学校。
昼12時になり、チャイムがなる。
3年5組の教室で友達と仲良くお弁当を食べる黒髪ロングの女子高生、ヒグラシヒメは笑いながら会話を楽しんでいると、突然ドアを勢いよく開かれた。
全員の視線がそちらに向くと、特撮のヒーローの様な赤き戦士がそこに立っている。
「なんだ君は。コスプレなんてして、警察を呼ぶぞ」
教師の忠告に聞き耳を持たず、戦士はベルトに右手をかざす。
「悪はすべて俺が倒す。シューティングシルバー!」
ベルトのスクリュー部分からビームガンを右手から取り出し、辺りを見回す。
「感知した。排除する」
ビームガン、シューティングシルバーを乱射する。
生徒達が次々に撃ち抜かれていく姿に、教師は抑え棒を黒板の下から取り出し、戦士を止めようとした。
だが戦士は縦横無尽に飛び回り、殺害人数を増やしていく。
(なんでこんなところに主人公が?)
恐怖しながらも、その場を逃走する生徒達に紛れるヒメ。
「逃がさん!」
主人公はシューティングシルバーを乱射し続ける。
いや、あれはただ乱射しているのではない。
選別しているのだ。
悪かどうか、殺す対象なのかを。
「この教室の悪はすべて処理した。次に向かう。スピードアップ」
そう言ってシューティングシルバーをベルトにしまうと、右サイドスイッチを押す。
すると、足の血管が浮き出て来る。
そして左足を踏み込み、一気に加速、見えないスピードで次の教室に向かった。
走り回っている間に、迷子になったヒメは1人になってしまう。
いや、正確には1人ではない。
肌身離さず持っているライトノベル〈救いの殺人〉に潜む 主人公と共に戦うことになった自分と同じマスターを探す。
『ヒメ、マスターをもし見つけたらすぐに私を召喚して。あっという間に始末するから』
少女の声が〈救いの殺人〉から聞こえてくる。
「油断しないで、相手はアタリの部類だと思う」
主人公にはランクがあり、上から順に、オオアタリ、アタリ、フツウ、ハズレが存在する。
それによってパワー、スピード、ディフェンス、テクニック、ラッキーと言ったステータスが割り振られている。
A・すごく強い
B・強い
C・人間並み
D・弱い
E・すごく弱い
となっている。
それに加え、+と-という概念が存在し、+はステータスの上をいき、-はステータスの下をいく。
たとえを言うならば、C+++の場合、C++以上、B以下となり、C---の場合はD+++以上、C--以下となる。
『現在、この学校を不審者が歩き廻っています。危ないですから、体育館に速やかに避難して…………』
放送している男性教師が続きを言おうとした次の瞬間、銃撃音と共にノイズが入る。
『排除完了、次に向かう』
主人公の声をマイクが拾い、足音が聴こえてくる。
(早くマスターを探し出して、こんな事件終わらせないと)
駆け回るヒメは2階のA棟とB棟を繋ぐ通路に男子が体育座りをしてライトノベルを読んでいるのが目に入り、足を止めた。
「あなた、ここの生徒じゃないでしょ? 制服が違うし、何よりその斜視、もしかして支援級?」
黒髮の男子はライトノベルを読むのをやめ、バタンと音を立てながら閉じると、かったるそうに立ち上がり、不敵な笑みを浮かべる。
右目の瞳が右寄りに泳いでおり、ヒメは気色悪いと感じた。
「そうだよ。ちょっと気分が悪くてねぇ。ここでラノベを読んでるんだ。君こそ、ここで何をしているんだい? まあお昼休みだし、何をしようが勝手だけど」
「今の状況分かってる!? 怪物が暴れてるのよ!?」
男子はヒメの発言に対して苛立ちを感じる。
しかし怒りを表情に出さず、鼻で笑う。
「怪物? どこにそんなのがいるんだよ」
「放送で流れてたじゃない!?」
「君はちゃんと聞いてたの? 放送で言っていたのは不審者であって怪物じゃない」
理屈で語る彼に、ムカっときたヒメは表情を歪ませ、体を彼と逆方向に向ける。
「あっそ、ならあなたも勝手にすれば。怪物に殺されても知らないけどね」
そう言ってその場を立ち去ろうとすると、赤き戦士、もとい 主人公がシューティングシルバーを右手で構えていた。
「主人公の気配がする。マスターであろうお前を粛清し、悪の根源を断ち切る!」
トリガーを弾こうとする主人公に、ヒメはとっさに〈救いの殺人〉を取り出し、自分の
主人公を召喚する。
「お願い! 救いの暗示!」
〈救いの殺人〉から黒き光と共に現れたのは、白く長い髪、左頭部を黒き包帯でぐるぐる巻きにして隠し、赤い瞳を持つ少女。
黒く、丈が短いタンクトップを着ており、小柄ながら大きな胸が目立ち、へそが出ている。
両腕に黒き包帯を同じくぐるぐると巻き、さらに下はゴスロリを彷彿とさせる体操着を履き、足には黒き包帯をぐるぐると靴下の様に巻いている。
左手に黒いマガジン式のオートマチックガン、右手にはサバイバルナイフを持っている。
主人公と主人公が戦う前に、礼儀として挨拶をしなければならない。
「俺の名は正義の暗示、意味は正義、不安定、悪の絶対排除だ」
「私の名前は救いの暗示、意味は救い、救助、異常なまでの依存よ」
紹介が終わり、これより戦いが始まる。
「スピードアップ」
正義の暗示はベルトの右サイドボタンを押す。
足の血管が浮き出てくると、右足で床を踏みしめ、肉眼では捉えきれないスピードで救いの暗示に襲いかかるのだった。