【番外編】前世:白井夏美の嫉妬(終)
「お前……前から知ってたな」
「……っ!」
「静子の居場所、知ってたんだな?そうだろ?」
「ううっ!」
我慢できなくなった夏美は、泣き出した。
「黙れ。煩い」
また夏美の襟首を掴み、
上から汚物を見るような目で夏美を見据えた。
「静子の居場所を教えろ」
夏美は目を見開いた。
静子の手紙は、その都度全て破棄していた。
一通も残っていない。
綺麗な静子の字を見ることさえ嫌だったから、
新しい住所は県名しか覚えていない。
もう、二度と電話も掛かって来ないだろう。
「……か、神奈川県、とだけ、しか、わから、ない」
ガンッ!!!
「きゃー!乾くんっ!」
亮介が机を思い切り殴った。
亮介の右手拳から血が流れた。
「他は?連絡あったんだろ?言えよ!早くっ!!」
「ご、ごめんなさいっ!全、て、捨てちゃって、わ、わからない、です」
「ふざけるなっ!!お前っ!俺は何度も聞いただろっ!!……クソッ!!
……お前なんかを信じた俺が…馬鹿だった……。
俺は一生、お前を許さない。もし、静子に何かあったら……っ!」
「わ、わたしっ!亮介くんが好きだったのっ!
今も好きなのっ!貧乏になった山下さんなんかやめて、
わ、わたしを好きになってっ!わたしを選んでっ!!」
「うるさいっ!!勝手なことを言うなっ!!
俺は今も未来も、静子だけだっ!!!
静子以外なんて有り得ないっ!!!
………俺の中からお前の存在を、この瞬間から全て消す。
だか、絶対に……一生許さない」
凄まじい形相で夏美を睨み付けた亮介は、
血だらけの拳を下げたまま教室を出て行った。
夏美が亮介と目が合ったのは、それが最後だった。
「……白井さん。あなた、本当に……最低だわ。
どんな理由があったとしても、
あなたが山下さんと乾くんにした事を、
私は人として絶対に許せない。
今後一切、私にも二度と話し掛けないで」
「あっ…」
真中も蔑むような目付きで夏美を見下ろし、教室を出て行った。
その日から夏美は卒業するまで、学院でずっと独りだった。
夏美がした事を真中は一切話さなかったが、
異質的な暗い雰囲気の夏美には、誰も近寄らなくなった。
大好きだった初恋相手の亮介に、
完全に存在を消された夏美は心を病んだ。
一度謝ろうと亮介に近付いたが、
夏美の存在自体を無視された。
その後、夏美はほぼ不登校になった。
学力も落ち、聖陵学院大学には進めなかった。
何とか高校は卒業したが、
その後の夏美の行方は誰も知らない。
数年後、夏美の父親が経営していたシライスーパーは、
ひたすら拡大路線を突き進んだ結果、
資金繰りが悪化し、呆気なく倒産した。
【番外編】前世:白井夏美の嫉妬 終
※夏美編、終わりました。
書いていて苦しかったです。
『お前のせいで静子はー!!!』と、怒りながら書きました。
作者はやっぱりハッピーエンドが好きです。。