【番外編】前世:白井夏美の嫉妬(6)
亮介は学年の女子生徒に片っ端から静子の事を聞き周り、
必死に探していた。
日に日に顔色が悪くなり、いつも苛々した形相で周囲は怖がった。
時々、亮介に『静子から連絡が来たか』とぞんざいな口調で聞かれる以外は、夏美は話し掛けられることは無かった。
視界にも入っていなかった。
夏美がまだ無いと答えると肩を落として去る亮介の背中を見つめる度に、昏い歓びを覚えた。
静子の事を聞いてくるその瞬間だけは、確かに亮介は夏美を見る。
その美しい黒い瞳の奥に一筋の希望を堪えながら、
夏美を見つめるその瞬間が震えるほど嬉しかった。
9月になったある日、
下校途中にいきなり静子が目の前に現れた。
驚いた夏美は慌てて近くの公園に連れて行った。
静子は少し痩せて窶れていた。
髪を切り、粗末な服装だったが、静子はやはり美しかった。
内面も外見も凛とした美しさは損なわれていなかった。
静子は『本当のお嬢様』なんだと見せつけられた瞬間だった。
腹が立ちカッとなった夏美は、
亮介とのことの願望を現実の事のように思い付くまま話した。
実際は………
亮介くんなんて一度も呼んだことは無い。
そもそも、一度も名字も名前も呼んでもらったことなんて無い。
一緒にクラス委員なんてしていない。
一緒になんて、聖陵学院の医学部の推薦を受けない。
もし受けるとしても、別々だ。
そもそも亮介の帰国後、あの叱責された後は真面に話さえしていない。
しかし、今の静子にはそれを確認する術は無かった。
夏美以外、学院で繋がっている友人はいなかったから。
夏美は、優しい静子に一番効くであろう言葉をぶつけた。
『亮介くんに迷惑を掛けるな』
静子は思い通りに完全に夏美の言葉を信じて、
絶望的な目をしながら顔面蒼白でフラフラと去って行った。
やった……。
これで静子は亮介くんを諦めただろう。
嬉しくて震える。
ずっとずっと邪魔だった、静子。
やっと私の目の前から消えた。
完璧に叩きのめした。
ずっとずっと、その存在が羨ましかった。
何もかも、全てを持っていた静子。
家柄もお金も容姿も頭脳も優しい心も、亮介くんも。
これで全て無くした!
地獄に堕ちたらいい!!
亮介くんは絶対に私が手に入れる。
誰にも渡さない。
あの美しい人は、私のものだ。