【番外編】前世:白井夏美の嫉妬(5)
高3の7月になって、とうとう亮介が帰国した。
亮介は更に一回り大きくなり、
少し日焼けをした逞しい美男子になっていた。
米国で色々と経験したのか自信に満ち溢れたオーラが出ていて、
学年で格好良いと言われる男子達とは格段にレベルが違っていた。
外国人の先生と話す流暢な英話に驚いた。
何人もの女子が亮介を狙っていた。
亮介は私と同じクラスになり、嬉々として話し掛けた。
「おかえりなさい!乾くん!」
「……ああ、ただいま。静子から新しい住所の連絡は来たか?」
「…まだ無いの…ずっと待ってるのに…。
もう、新しい場所で新しい友達とか彼氏とか出来たのかな…」
バンッ!!!
「きゃっ!」
自分の机を思い切り叩いた亮介は、
怒りの形相で夏美を睨み付けた。
「……そんな訳無いだろう。静子の事で滅多なことを口にするな。
お前、今後静子の情報以外は、俺に一切話し掛けるな」
腹の奥底から出したとても低い亮介の声は教室に響き渡り、
クラス全員震え上がった。
夏美は恐怖と屈辱で涙が止まらなかった。
ほくそ笑む周りの女子たちは、誰も夏美を慰めなかった。
相変わらず静子から手紙と電話は来るが、
それを亮介に教えたらすぐに静子の元に走るのがわかる。
そうなると、夏美の入る隙間は完全に無くなる。
だから絶対に教えられなかった。
亮介との唯一の接点を離したくなかった。
全て、隠蔽した。
あんなに強い口調で言われても、
夏美は初恋を諦められなかった。