【番外編】前世:白井夏美の嫉妬(4)
高2の初夏の頃、亮介が家族で一年間米国に行くことになった。
夏美は亮介について行きたくて、米国に留学したいと親に言ったら固く反対されて断念した。
亮介がいなくなった後の静子は抜け殻のようだった。
虚ろな顔には覇気が無くなり、泣き腫らした目で登校している日もあった。
夏美も亮介がいない日々は淋しくて辛かった。
会いたくて仕方がなかった。
それから少し時間が経ったある日、急に静子の顔付きが変わった。
以前よりも意欲が出て積極的になった。
訳を聞くと、亮介からエアメールが届いたらしい。
嫉妬で目の前が真っ赤になり、話の内容は殆ど耳に入らなかった。
私にそれが届くはずが無いのは分かっているが、心底羨ましかった。
静子は人が変わったように明るくなった。
成績も上がり、特に英語は毎回試験で上位の成績を取るほどで、外国人の先生と英語で普通に話していた。
驚いた私も慌てて英会話を習った。
ひたむきに頑張る姿や、男子に強引に言い寄られて本当に困っている姿を見かねて、女子の中には何人か静子と仲良くなる生徒がいた。
もともと生粋のお嬢様同士で、母親同士が知り合いだったり、お稽古事や気の合う話があったようで、話が分からない夏美はその時は仲間には入れなかった。
悔しかった。
一人で勝手に疎外感を抱いて、静子を羨んだ。
しかし、高3の梅雨の頃に大きな転機がやって来た。
静子の実家の事業が倒産した。
静子が急に学校に行かなくなり、
後で噂を聞いた時はかなり驚いたけれど、
その日は帰ってから一人自室で大喜びした。
静子の人生が転落し始めた瞬間だった。
ざまあみろと心から思った。
静子はすぐに学院を追われるように退学し、
豪邸からは大量に物が運び出されていった。
笑いが止まらなかった。
後日、静子から手紙が届いた。
新しい住所が決まったから亮介が米国から戻って来たら伝えて欲しい、夏美には直接話せなくて申し訳無いと謝罪まで書いてあった。
伝えるわけが無い。
亮介と引き離すチャンスだ。
手紙をビリビリに細かく破いて捨てた。
その後も何度も送られてくる。
同じように全て破いて捨てた。
その内、家に電話が掛かってくるようになった。
お手伝いさんには、苦手な人だから絶対に取り次がないようにと言った。
心から清々した。




