【番外編】大学生編 健二 ただ一つの夢(後編)
常盤 健二は幼稚園を卒園する頃、
空手道場で初めて見た、外国の人形のように可愛い女の子に一目惚れをした。
彼女を見た途端、
全身に雷が落ちたような衝撃を受けた。
空手の技を真面に受けた時よりも、
もっともっと衝撃的だった。
それ以来、ずっと彼女だけを見つめ続けてきた。
幼い頃から彼女は美しすぎて、
物語の王子様の様な、
家柄も見栄えも良い男達が彼女にこぞって近寄っていった。
陰で奴らを必死に蹴散らしながらも、
彼女と王子様達が並ぶと至極お似合いな姿を見ては、何度も落ち込んだ。
完全に父親似の、全てが大きく厳つい自分には、
どう足掻いても王子様の容姿は手に入らない。
辛い現実に何度も挫けそうになった。
それでも彼女に会える空手道場には休まず通った。
同じ聖陵学院小学校での低学年時は、
なかなか同じクラスにはなれずに悔しい思いをした。
そんな中、小学三年生の時に出場した空手の試合で、
当時既にかなり強かった健二は、
特別に小学生高学年の部に出て優勝した。
その試合後に彼女から言われたひと言で、
健二は天にも昇るような気持ちになった。
『優勝おめでとう!健二っ!!すごいね!
高学年の中で優勝なんて、ほんとにすごいよ!
恵ねー、パパみたいに強い人がだいすきなんだー!かっこいいよねー!』
恵から初めて『すごい』と言われ、
更に『だいすき』と『かっこいい』が聞こえてきた途端に、
全く顔には出ないが一瞬で有頂天になってしまった。
『パパみたいに』の箇所は、健二には都合良く聞こえていなかった。
健二はその日から、更に鍛えに鍛えた。
周りからは『御曹司だけど、きっと将来の夢は格闘家なんだな。がんばれよ、少年!』と微笑まれる程に鍛えた。
更に、王子様たちに負けないように勉強もものすごく頑張った。
息子のやる気に両親は大喜びだった。
小学生の頃はそこまででは無かったが、
かなりの意地っぱりでなかなか素直にならない彼女が、
自分の事を意識していると気付いた中学生のある日、
健二は自室で一人、静かに嬉し泣きをした。
その時、
将来必ず愛しい彼女を自分の妻にすることを心に決めた。
恵と出会ってから15年。
恵を自分の妻にするために、健二は今まで生きてきた。
彼女は本当に美しい。
外見も中身も、本当に美しくて眩しい。
高二で付き合うまでは、ダンス部に命をかけていた彼女を自由にして見守っていた。
ダンス部を引退し、大学で予定している留学費用は自分で稼ぐと始めた、雑誌のモデル活動やCMであっという間に人気が出てしまった。
活躍する彼女が遠くに行ってしまいそうで、
本当はいつも怖かった。
本音は辞めさせたい。閉じ込めたい。
けれど、嫌われるのが死ぬほど怖かった。
ただ、耐えるしかなかった。
小さい頃から健二の立場は全く変わらない。
彼女が羽ばたく度に傍で見守り、
自分の元に戻って来てくれるのを待つしかなかった。
けれど、結局は何でもいい。
彼女の傍にいられるなら、何でも良かった。
いつか彼女の夫になれるのなら、いくらでも待てた。
その俺が、
今やっと、やっと彼女に結婚を了承してもらった。
本当に、夢のようだ。
大丈夫だと、両想いだと分かってはいたが、
はっきりと彼女の声で、言葉で聞くまで本当に不安だった。
本当に長かった。
言質は取った。
もうすぐ、俺のただひとつの夢が叶う。
この腕の中の恵を………やっと手に入れた可愛い妻を、
一生離さず、大切にしよう。
健二の目尻から、小さな涙の雫が落ちた。
【番外編】大学生編 健二 ただ一つの夢 終
※いかがでしたでしょうか?
本編では寡黙な健二ですが、
恵だけを一途に想って、必死に努力して生きてきた一人の男子でした。
楽しんでいただけたら幸いです。
少しお時間を頂いて、また番外編をお届けしようと思っています。
この短編もお読み頂きまして、本当にありがとうございました!