【番外編】有沢 葉月の初恋(4)
「美久子ー!」
「うぎゃあー!流青くんっ!汗っ!
ユニフォームがびちゃびちゃじゃないっ!
ちょっと!離れて!いやーっ!たっ、田尻さーん!」
「乾様」
「…………はい」
「もうっ、流青くん!私制服だよ……。
もうっ、汗っ!ほら、これで拭いて」
「もうばっかり。美久子が拭いて?」
「え?何で!?自分で拭けるよね……」
「無理。今日の練習かなりハードだからフラフラだ。
江川のヤツ、俺だけツーメン長めにしやがって」
「もー、仕方が無いなあ。はい、頭下げて……
あー、座ってちょっと休んで。
はい、スポドリこれね。飲んでね」
「ふふっ。はーい」
美久子にタオルで頭をワシャワシャと拭かれ、
タオルから顔を出した流青は、満面の笑みだった。
拭かれている間も、
流青は長い両腕で美久子を囲っていた。
あんな……あんな笑顔、するんだ。
子供みたいな、満面の笑顔。
あんな甘えた喋り方……。
甘える仕草や言葉。
どれだけ心を許しているのかが分かる。
彼女さん……ミクコさんって言うんだ……。
後ろ姿しかわからないけど、
やっぱり、可愛い。
「わあ!髪の毛ぐしゃぐしゃになっちゃったね!
ボサボサだね!あはは!」
「むー!!」
「………私のマネをしないでください」
「ふふっ」
「ピピーッ!はい、休憩終了1分前ー!」
「流青くん、休憩もう終わりだよ。はい、いってらっしゃい!」
「……休憩終わるの早い。早過ぎる」
「……練習、終わるのちゃんと待ってるから、ね?
そうだ!今日ね、帰りに平松さんが、美味しいハンバーグ屋さんに連れて行ってくれるんだって!楽しみだね!だから、がんばって!」
「……俺はハンバーグより美久子が良い」
「えー?」
ちゅっ
流青にぎゅっと引き寄せられた美久子は、
流青が頭に被っているタオルで隠されながら、
不意打ちでキスされた。
「っ!?」
「よし。これで頑張れる。いってくる。
あと1時間で練習終わりだから、先に車で待ってて」
「もうっ!ここ、学校っ!いってらっしゃい!頑張って!!」
顔を真っ赤にして怒る美久子のえくぼを、スッと指でなぞった流青は、
1階のコートへ走って行った。
「……もう、ほんとに……困る……」
美久子はチラッと常盤SPの田尻の方を見て目が合うと、
更に赤くなり、がばっと下を向いて席に座った。
暫くその姿勢のまま動けなかった。
葉月はその様子を茫然と見ていた。




