【番外編】前世:白井夏美の嫉妬(1)
うさみみのなみだ 番外編です。
うさみみのなみだ 本編からお読み頂いた方が、内容がわかりやすいかと思います。
お楽しみ頂けたら幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
やった……。
これで静子は亮介くんを諦めただろう。
嬉しくて震える。
ずっとずっと邪魔だった、静子。
やっと私の目の前から消えた。
夏美は白井家の次女として、昭和20年代の終わりに生まれた。
中学を卒業して東京に出て来た父親が卸売市場で働き、
小さな八百屋から始めた店を全国展開するスーパーに規模を一気に拡大した。
夏美が中学生の頃にはかなり裕福になり、
高校入学直前に平屋の借家から大きな家に引越した。
それまで与えられる物は姉のお古ばかりだったが全て新品になり、
欲しいものは何でも買ってもらえた。
まるでシンデレラにでもなった気分だった。
高校からは熱望していた聖陵学院高校に通った。
昔、街で見かけた学院の生徒がとても素敵で憧れていた。
小さな頃から両親に勉強は強いられていたので、
聖陵学院はかなり難関だったけれど何とか合格した。
学院は正に別世界だった。
日本有数の金持ちの子供ばかりで、女子は皆んな綺麗で賢くて制服を着ていてもお洒落で輝いていた。
男子も公立中学校にはいない、洗練されていて格好良くて余裕のある生徒ばかりだった。
夏美は中学校時代は見た目も成績もかなり上のレベルにいたのに、学院に入ると自分が冴えない低レベルになった気がして、入学式も教室に入ってからもずっと下を向いて座っていた。
思い描いていた学院生活とは全く違っていた。
入学式の翌朝、暗い気持ちで家の門を出ると、二軒隣りの豪邸の前に学院の制服を着た背の高い黒髪の男子生徒が立っていた。
その男子生徒は遠くから見てもとても美しい容貌で、一目で好きになってしまった。
唖然と見つめていると、豪邸から学院の制服を着た綺麗な女の子が出て来た。
それが山下静子だった。
無表情で立っていた男子生徒は、乾亮介だった。
亮介は静子を見るとこぼれるような笑顔になり、
静子もはにかんだ笑顔でそのまま駅に向かって並んで歩いて行った。
二人共、一緒にいるのがとても自然で、誰も間に割って入ることが出来ない独特の雰囲気だった。
見つめ合った二人は、映画のワンシーンの様に美しく、この時夏美はまだ友人でも無かった静子に勝手に嫉妬した。