本性を隠した女
俺のことを独占したいわけじゃないと言いつつ、こいつの行動、言動は完全に、俺のことを独占……いや、束縛しているようにすら感じる。
本来、誰かを下の名前で呼ぶのに、この女の許可がいるはずもない。だが、言う通りにしなければ、相手がどうなるかわからないのだ。
それはもう、脅しと言える。
俺がこの女の悪事を声高らかに訴えたところで、誰も耳を貸さないだろう。
「マリシャちゃん、おはよー」
「おっはよー! るんるん、今日もかわいいねぇ!」
……あいつは、クラスの中でもかなりの人気者だ。認めたくはないが。
クラスのヒエラルキーというやつに興味はないしあるのかも知らないが、もしそんなものがあるのなら……あいつは、間違いなくトップに近い位置に君臨している。
異性はもちろん、その明るい性格から同性からも評判がいい。それに、告白されることだって一度や二度じゃない……むしろ、一時期は毎日のように告白されていたこともあるらしい。それも、男女問わず。
そして、一々誰にいつ告白されたかを、あの女は俺に報告してくる。その報告の最後に「もちろん振ったから安心してね」と加えて。
芹澤 マリシャは、非の打ち所がないくらいに完璧な女だ。ただ、俺がこの女の本性を知っているだけで、一般には他の人間は表の顔しか知らない。
だから、モテるのも告白されるのもまあわかる。むしろ誰かとくっついてとっとと俺から離れてくれという気持ちと、他の誰かにこの危険な女を渡せない、という気持ちとで板挟みだ。
一つ救いなのが、この女は自分が俺に抱いている好意が、俺にバレていると知らないことだ。だからこの女は、告白を断るとき、せいぜい「好きな人がいる」と言うくらいで、俺の名前は出さないだろう。
もしも俺の名前を出されようものなら、学内に存在するというこの女のファンクラブに袋叩きにされてしまう。
「やだもー、マリシャったらおもしろーい!」
「あははは!」
……誰も、あの女の本性を知りたい。誰でもいい、誰か……俺の悩みを、ぶつけられる相手は現れないだろうか。