二人きりの地獄
こうして、今は高校生として学校に通っている。学校ではそれなりに人付き合いもうまくやれているし、自分でもわりとまともな生活を送っていると思う。
「やー、やっぱり二人きりのこの時間はいいわね!」
……こいつの存在を除けば、な。
学校に近づけば、同じ学校の生徒も道中増える。しかし、家から出たばかりの空間は、この女と二人きりの登校になってしまう。
家では、おばさんやおじさんがいる。共働きだが、俺らが帰るころにはおばさんは家にいるので、この女と二人きりになることは、こいつが部屋に乗り込んでこない限りない。俺からは絶対行かないし。
学校では、言うまでもなくたくさんの人がいる。運悪く同じクラスであるこいつが絡んでくることはあるが、二人きりという空間はない。
下校は、この女は帰宅部だが俺は陸上部に入っている。部活終わりを待ち合わせされることもあったが、部活の友人らと帰りたいから先に帰っててくれと言ってある。
極力二人きりの空間は作らないようにしているが……この登校の時間だけは、どうしようもない。
「今日もいい天気ねー」
「あぁ」
だから俺は、適当な相づちを打って過ごす。早く、他の生徒が現れる場所に行くまで、出来る限り気づかれないよう早足で。
二人きりの空間は、地獄だからな。
「よーお二人さん!」
そうやって、気づかれないように工夫しているうちに、こうして声をかけられる。いや、こちらから声をかけてもいい。その相手は、同じクラスの人間ならベストだ。
それなら、同じクラスなので途中で別れるということはほぼない。
「いやあ、朝から見せつけてくれちゃって、うらやましいねえ」
「やだもう」
こいつは、クラスの友人。癪だが、クラスの中では俺とこの女をカップルだとしているものが多く、それはこの友人も多い。
赤くなるこの女を殴ってやりたい衝動を抑えつつ、俺は「そんなんじゃねえって」と冗談めかして返す。本来なら、「冗談じゃないふざけるな」と言いたいところだが、あまり真剣に返すと逆にマジっぽいのだ。
だからこういうときは、冗談交じりに否定しておく方がいい。本気で否定したのを必死に抑えて。
誰が、こんな女なんかと。俺の両親を殺した女だぞ……とはさすがに言えないが。俺がこの女になびく可能性は、微塵もない。それは、両親の仇である理由とは別にある。それは、俺には……
「あ、高城くん、おはよう」
「あ、あぁ、おはよう」
俺には、好きな子がいるのだから。