どうしたいのかわからない
それから10年もの間、俺はこの芹澤家にお世話になっている。いや、正確にはおじさんとおばさんに、だが。
部屋は、空いている一室を俺の部屋として与えてくれた。元々物置として使っていたものらしい。そこを使わせることを悪そうにしていたが、とんでもない。物置だろうがなんだろうが、部屋を与えられるだけありがたすぎる。
本来、どっか施設にでも預けられるところを、迎えてもらったのだ。感謝こそあれど、不満などあるはずもない。
……この女を除けば。
「怜、私のも食べる?」
「マリシャ、おかわりならあるんだからあんたは、自分のを食べなさい」
「はーい」
……芹澤 マリシャ。俺の両親を殺した張本人であり、その理由はもっと一緒に入れるから、なんていうバカげたものだ。
当時は、その言葉の意味がいまいちわからなかった。だが今なら、わかる。正直わかりたくもないが。
こいつは、俺と一緒に暮らす。ただそれだけのために、俺の両親を……
「どうしたの怜、そんなに情熱的に見つめられたら、照れちゃう」
頬を赤らめ、もじもじと体を揺らすその姿……あぁ、殴りたい。
あの日の件は、10年経った今も事件未解決となっている。深夜だったこともあり目撃者はおらず、炎により証拠となるべきものも燃えてしまっていたらしい。
窓に鍵はかかっていなかったが、窓は割れていたことや、被害者の首を何度も刺している傷、俺は対象外であったことかあら、犯人は二人によほどの恨みを抱いている近隣住民じゃないかという線が濃厚だったが……
容疑者らしい容疑者もいないまま、今に至る、ってわけだ。
「じゃ、いってきまーす!」
「行ってきます!」
なんでか、こいつは俺に好意を持っている。ライクでなくラブの。これは自惚れとかではないが……まだ、その方がよかった。こいつが俺に惚れてなければ、両親は……
外見はもちろんだが、一緒に暮らして内面も文句のつけようがないほど、いい女なのはわかった。これまで10年も一緒に過ごしてれば、いろいろなことがあった。家族で旅行に行ったり、家の中でいわゆるラッキースケベのような展開があったり。
いろいろなことが、あった。その上で……俺はこの女に好意を抱いたことは、一度も思っていない。
だが俺自身、この女をどうしたいのかわからない。両親の復讐……ってのも、しっくりこないし。