誰もが羨むような幼なじみの正体は
コンコン、ガチャ
「怜ー、起きてる?」
扉が、開く。ここは、俺の部屋だ……性格には、俺の部屋として割り当てられた部屋……ややこしいし、やっぱ俺の部屋でいいか。
というのも、この部屋……いや家は、俺のものではない。所有者が、的な問題ではなく、俺は住まわせてもらっている形だ。
「ノックするなら、せめていきなりドア開けるのはやめてくれ」
「細かいことはいいじゃないの。それよりほら、もうそろそろ学校行く時間よ!」
俺を起こしに来てくれたこの女は、芹澤 マリシャ。下の名前がカタカナなのは、俗に言うキラキラネームというわけではなく、こいつがハーフだからだ。お父さんが日本人、お母さんがアメリカ人だったか……
その証拠に、こいつの髪は日本人にはまず見ない、美しい金髪だ。それを後ろで縛り、いわゆるポニーテールという髪型だ。瞳は海のように青く、まるで吸い込まれてしまいそう。
スタイルも抜群で、出るとこは出て締まるとこは締まっている……絵に描いたような、完璧な見た目。両親が日本とアメリカの人間だから、日本語も英語もペラペラだ。
才色兼備。さらには誰にでも優しく明るい。これで人気が出ないはずがない。運動神経はよくないが、そこがいいという声もある。嫌味のない性格から、異性だけでなく同性からも好かれる。
まさに、完璧だ。そんな彼女と俺は、一つ屋根の下に暮らしている。部屋を一室、俺のものとして与えてくれて、芹澤一家に俺はお世話になっている。
お世話になっている、と言うのは、俺が芹澤家の人間ではないからだ。俺は高城 怜。この女とは赤の他人であり、そんな俺がどうして、ここにこうしていられるかというと……
「いいじゃない、幼なじみなんだし。そりゃ、着替えてるとこにでも出くわしたら、謝るけど……」
そう、俺とこいつとは幼なじみなのだ。そのよしみで……いや、芹澤両親の好意で、俺はここに住まわせてもらっている。
頬を赤らめてもじもじしているこいつをチラリと見て、軽く手を振る。
「んじゃ、着替えるから出てってくれるか」
「あ、うんわかったわ。急がないと、朝ごはん冷めちゃうわよ」
制服スカートを翻し、部屋を出ていくのを見送って……俺は、立ち上がる。着替えるため、クローゼットに向かう。
幼なじみだから、という理由だけで、家に住まわせてもらえるはずもない。俺には、両親がいない。いないってのは、どっか海外に行ってる、なんてややこしい問題ではない。
もう10年も前になるか……今年17歳になるから、両親を失ったのは7歳の時だ。
「……」
失った、とは言っても……事故で死んだ、というわけではない。殺されたのだ……俺の、目の前で。
そして俺は、その犯人を知っている。
「……よし」
制服に着替え、部屋を出る。二階から階段を下り、一階へと降りる。
一階が近づいてくる度に、食欲を刺激するいい香りが、鼻をくすぐる。
「おはよう、怜くん」
「おはようございます、おばさん」
朝食を作っているのは、芹澤家の母親……お世話になっているおばさんだ。おじさんは、仕事に行ったのかいない。
なんてことない、家庭の風景。なんてことない、幸せな時間。それは、俺は血の繋がった家族とは二度と味わえない……そして俺から、それを奪った人間は、ここにいる。
「寝癖すごいわねぇ、ふふ。改めておはよう、怜!」
「……あぁ、おはよう」
……芹澤 マリシャ。俺の隣で笑っている、誰もが羨み憧れ好意を寄せる女。この女が、俺の家族を奪った、犯人だ。
ここでは、マリシャのことを紹介以外、名前では呼んでいません。全部「こいつ」「この女」としています。
それは怜の心情であり、実際には名前を呼びますが、心の中では名前を呼ぶことはしません。誤字でそうならないよう気をつけます。