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ゼロ・サファイア  作者: 秋雨春風
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第1話 出会い

この状況はなんなんだ…

俺の頭を支配した思考はただそれだけだった。

足下には瓦礫が散乱し、辺り一帯が土煙に覆われている。

それだけでも非日常的なのに、その煙の間から垣間見えるものはより異常だった。

肌色だった。それもただの肌色ではなく、ところどころが淡い水色の布で覆われた肌色だった。

いや、回りくどく言うのはよそう。

立ち込める土煙の間から、淡い水色の下着を纏った半裸の少女が碧色の目を丸くしてこちらを凝視していた。

小顔で整った顔立ち、腰まで伸びた艶やかな金色の長髪、色白で日焼けひとつない肌、出るところは出て引っ込むところは引っ込んだメリハリのあるスタイル。

つまるところ、美の極致の体現とも言える少女だった。

土煙と瓦礫ばかりの非日常的な状況と、異常すぎる美を宿した少女が織り成すコントラストは俺の頭から思考能力を吹き飛ばすには充分すぎる威力を持っていた。

少女の方も何が起きているのか理解が追いついていない様子で、大きめのタオルを持ちながら直立不動で固まっている。

だが、一瞬早く少女の思考が復活し、顔を真っ赤に染めるとともに息を大きく吸い込んだ。

俺も遅れながらも正気を取り戻し、制止のための言葉をかけようとしたが、

「きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

間に合わなかった。

少女は言葉にならないほどの声で全力の悲鳴を上げた。

その悲鳴に呼応するように、あちこちから足音や人の声が近づいてくる。

こうなってしまったらもう止められない。

俺はなぜこうなってしまったのか、数刻前までの記憶を遡り大きくため息をつくのだった…



春の暖かい夕日が瞼を照らし、目覚めた。

午前の講義が終わると同時に屋上に足を運んだ俺は、昼食を食べ終わると直ぐに物陰で横になり昼寝を始めていた。

夕方になって太陽が傾いたことで物陰にも日光が指すようになったわけだ。

起き上がりながら大きな伸びを1つすると、耳元においておいたデバイスを手に取り起動した。

画面に表示された時刻は18時を知らせている。実に4時間以上も昼寝していたあたり、俺の身体も精神も相当に疲労を抱えていたらしい。

俺はデバイスをズボンのポケットに仕舞いながら立ち上がると、沈みかけた夕日をぼんやりと眺める。黄昏れること自体に意味はないが、眠気が覚めると同時に自分の心がとても落ち着いていくのを感じることができる。こうしたなんでもない時間が何よりの癒しだ。

しばらくそうしていたい俺だったが、最終下校時間の呼び鈴が鳴ると寮に戻るために屋上を後にした。


自分のロッカーで荷物をまとめ終え、靴を履き替えて校舎を後にする。

校舎を挟んで東側にある男子寮に向かうには大きく迂回する必要がある。しかし、校舎と隣接した競技場の横にある抜け道を使えば、ものの数分で寮に着くことができる。あまり知られていない抜け道だ。

本来なら左に行く分かれ道を右に進み、競技場の方へと向かう。

競技場の傍までのんびり歩いて行くと、

「クソが、ふざけやがって!」

憎悪の交じった怒声が俺の耳に飛び込んで来た。

声の発生源の方をを見ると、柄の悪そうないかにもグレた様子の大男が競技場の壁に拳を打ち付けている。

しかも1回では鬱憤が収まらないのか、立て続けに何度も壁を殴り続けている。

俺はすぐさまその場を後にする選択をすると、音を立てないようにそそくさに立ち去ろうと小走りになる。絡まれる前にさっさと帰るのが吉だ。

そう思い、足速にその場を立ち去ろうとした。

ドズンッ!

その目の前に道端に植えられた桜の木が倒壊してきた。

目を見開き周囲を見れば、先程の大男が手にした強大な戦斧で桜の木を薙ぎ倒していた。壁を殴るだけでは鬱憤が収まらなかったのだ。

大男は戦斧を持ち直すと、再び大きく振りかぶる。

「待て、落ち着け!」

必死になってなりふり構わず制止をかける俺だが、それで止まるようなやつではなかった。

次の瞬間、大男は戦斧を次々と叩き付け始めた。地面、花壇、桜の木、競技場の沿道に植えられた植物たちが絶え間なく破壊されていく。

このままでは俺の身まで危ない。即座に逃げようとするが、周囲を破壊された植物や瓦礫が飛び交っていて無理に動けばそれに巻き込まれてしまう。

ドガンッ!

八方を塞がれた俺の耳に、今までとは違う爆音が届く。

今度は戦斧を競技場の壁に叩き付けたのだ。しかも1度だけでなく何度も繰り返し叩き付ける。

すると、爆音と共に壁に亀裂が入り始める。大男は気が付いていていないようで、むしろ戦斧を振るうスピードを更にあげる。

直後、限界を迎えたのか壁が音を立てながら崩壊した。壁だったものが巨大な瓦礫となって大男に降り注ぐ。

やっと事態の深刻さに気付いた様子の大男だったが、もう遅い。次から次へと降り注ぐ瓦礫の下敷きになってしまった。

壁に穴が空いたことは俺にとっては僥倖だった。逃げ道が出来た俺は、壁に空いた大穴に飛び込んだ。



ここまで思い出したところで、俺は現在に思考を戻した。

目の前には顔を真っ赤にした半裸の金髪美少女。そして、それを取り囲むように、大勢の女子生徒がいつの間にか集まって来ていた。

その全員が俺にゴミを見るような視線を向けている。

これはでは、この場でどれだけ全力の弁明をしたとしても、より彼女たちの怒りに火をつけるだけだ。

やるせない気持ちで俯く俺だったが、後から駆け付けてきた風紀委員に強制連行されるのだった。

去り際、金髪碧眼の少女の恨めしそうな視線が脳裏に焼き付いた。

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