第06話 学校なんていかなくていい。
なぜだ。
おれは生徒手帳に記された千葉戴天高等学校の1年A組にさっそく顔を見せてきたのだが、まるでうまくいかなかった。
時期の外れた突然の転校生。
素性は不明。親はいない。
近づいてくる生徒は誰もいなかった……。
「これが孤独か」
おれ誰もいない廊下の端でひとりぽつりと漏らす。
「大変そうね」
「おう」
「学校ってむずかしいでしょ?」
「だな……。ん!?」
いまのはまさしく、妖精術の念話だ! 『フィーリング・トーク』だ!
いったい誰が、と考える間もなく気づく。おれに対して気さくに話しかけ、さらに事情を知っているのは、カナサか女王しかいない。女王が一介の妖精にそこまで手を出すはずがないので、相手は必然として限られる。
「もしもしリコス? これが念話なの? スマフォより便利ね」
「スマフォってのが何なのかわかんないけど、お前が妖精力を身につけつつあるのには驚いた。人間だよな?」
「人間じゃなかったら何だっていうのよ……」
「あり得ない話じゃないが、人間と妖精の混血児」
「親は両方とも普通の人間よ」
「だよなあ……」
謎は深まるばかりだ。
おれはとりあえず人間を理解するため、なんとか頑張って授業とやらを聴ききった。50分の授業が一日に6回もあるなんて狂ってる。妖精だったら精神を病んで妖魔に落ちてしまい、討伐対象になっていただろう。
人間やばい。
人間こわい。
おれは逃げ帰るように、カナサの自宅まで脱兎した。
ちょうど彼女も帰宅したようで、背中に隠れて扉が開くのを待つ。
「ずいぶんと苦労したみたいね。やっぱり人間やめておいたほうがいいんじゃないの?」
「いや! おれが慣れなかっただけだ! カナサの親が帰ってくるまでに人間を会得してみせるぜ! なんたって夢だ、恐れることはない……はず」
女王の見せている夢が7割、ほんとうに現実3割くらいでおれは身構える。
人間の女の子が妖精術に目覚めたなんて聴いたことがない。やはり夢である線が濃厚だと思うんだ。
「わたしのほうは、いつも通りよ。妖精を探して妖精のことを考えていたら、変な気分になって、気づいたらあなたの声が聞こえていたのよ。相変わらず近寄ってくるクラスメイトはいなかったけど、新鮮な体験だったわ」
「そりゃよかったことで」
一日の長というやつか。
人間としての落とし込みかたがカナサは上手い。
おれは全部をまともに受け止めちまうから、苦しいのかもしれない。
人間って複雑だな。
「明日は学校に行けそうなの?」
「……いかない」
初日にして、おれは不登校宣言をしたのだった。