第04話 人間の生活(1)
幸運ここに極まれり。
なんつってな。
おれこと妖精のリコスは、人間になるべく修行をしていたわけだが、なんと人間になっちまったんだ! すっげえだろ!
さらにすごいことに、妖精を探しているという少女の斉藤香奈ことカナサの粋な計らいで寝所と食事を用意してもらっちまった。これさ……夢じゃないんだぜ? 現実なんだぜ……? 夢みてえだよ……ああ、おれは混乱している。
まあ互いに健全な関係だし、カナサの親はしばらく海外出張で帰らないらしく、ふたりして横に並んで寝ている。妖精のおれでも男女がいっしょの部屋で寝ることのいかがわしさくらい心得ているさ。
ちなみにカナサはパジャマっつー寝るときに着替える習慣があるみたいで服装が変わった。おれは服を変える習慣なんてないし、この制服ってものにもっとひたりたいからそのままだ。
「リコスは普段なにを食べてるの?」
「妖精って意味か? 主食は妖精界に自生してる植物だな」
「お肉は食べないの?」
「ああ、だからあのスキヤキってやつの食感ははじめてだ」
あのモキュモキュした食感はたまらなかった。
これがもし夢じゃなく現実なら、妖精術さえ使えれば妖精界に持ち帰ることもできそうだ。妖精術が復活したらスキヤキをお土産にもって帰って、仲間を驚かせてやろう、へっへっへ。
「わたしに聴きたいことはないの?」
「ん? んー、自分で発見したいからとりあえずいいや」
「そう」
「残念そうにすんなよ、しばらくはいっしょにいてくれるんだろ?」
反応はなかった。
眠ってしまったらしい。
ちいさな寝息が聞こえてくる。
おやすみ。
といって、おれは目をつむった。
夢を見た。
初めての体験だった。
おれが人間の女の子として産まれて、妖精を探して歩き回る夢だった。
でも。
その夢で女の子は周りから馬鹿にされて、いつも独りで泣いていた。
かなしい夢だった。