序章:始まりの日
少年A「誰とも経験せずに30歳を迎えると魔法使いになれるらしいぜ」
少年B「まじで!? 魔法使いになったら、やりたい放題じゃん」
そんな会話が教室の隅で、机をひっつけて雑談する少年から聞こえてきた。
私たち仲良しグループの少女達は、
「うわー引くわ...」とか「うざ...」とか言ってる。
私も軽く頷いたりして、周りに話を合わせていたけど、内心は違った。
(私も魔法少女になれる!!)
あれから、月日は流れ...
私が30歳の誕生日を迎えるまで、後数分という所まで時が迫っていた。
この瞬間の私が絶望するまでのカウントダウンである事を今の私は知らなかった。
時計が0時を指し、私の年は30歳となった。
るり「ん~? どうやったら、魔法使えるのかな? パッシブスキルとか無いのかな?」
身振り手振りで、魔法少女っぽくその場でクルクル回転してみたり、
それっぽい呪文を唱えてみたり...
るり「あれ? 私誰とも経験していないよ! 未経験だもん!! 魔法!! 魔法少女になりたいっ!」
薄暗い部屋の闇に消えていく悲しい声。
るりは、魔法少女に...自分自身の愚かさに絶望した。
るり「魔法少女になれない...」
深夜1時を回っているだろうか...静まりかえった商店街を通り抜け、ひたすら歩いていく。
町の中心から外れた所にそれはある。
昔は、そこそこ儲かっていたらしい...
今は、倒産してしまった会社があった廃ビルの12階。
コツコツ
コツコツ
階段を上る足音が暗闇の中響き渡る。
それは、まるで私を終わらせにきた死神の足音の様である。
-ここで、屋上までいけば、死神が迎えに来てくれるんだよね?-
-もう、苦しまなくても...いいんだよね?-
私の心は、とっくの昔に壊れていたのかも知れない。
そして、その時が..屋上にたどり着いた。
るり「ここから飛び降りたら、楽に人生を終わらせられるよね。」
魔法少女になる事だけが生きがいだった私から魔法少女が無くなった今、
生きている意味なんてないんだよね...
思えば、10代の頃...
何人に告白されたか...
男女問わず、告白を受け、断る毎日。
私は、魔法少女になるから、あなたとは付き合えない。
今となっては決まりセリフである。
-さよなら、私-
割れた窓から、身を乗り出するり。
窓ガラスの破片が、体を突き刺す。
落下に伴い、強烈な風が全身を襲い、ガラスの破片が強く体に食い込む。
鋭い痛みと恐怖。
私は、たしかに感じた様な気がする。
そういえば、どうして私は窓から飛び降りたのだろうか?
...まあ、今となってはどうでもいい話か
そして、ブラックアウトしていく意識..