表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/25

新しい戦い! 四つの扉を攻略せよ!

 民衆から人気が高かった、第二王子の反乱。

 それはステージ王国内で瞬く間に広がったが、その一方で事態は速やかに収まっていた。

 つまりは決起と同時に鎮圧された、ということである。

 もちろん、第二王子に怨霊が取り付いていたことは伏せられていた。


 そして、そんなことよりも重要なことが、水面下で進んでいた。

 王都の周辺に、何の前触れもなく『扉』が出現した。

 すなわち、魔神トロフィーの試練が始まったのである。



『ケン……私の体、大丈夫?』

「ぜんぜん大丈夫じゃない、めちゃくちゃでたらめにありえないほどしんどくてきつくて死にそう」


 騒動が収まったあと、ルーシーの体をのっとっている賢が倒れた。

 彼女の全身が魂の力に耐えきれなくなり、文字通り悲鳴を上げたのである。

 本来ならルーシーに体を返すべきだったのだろうが、今返した場合ルーシーがショック死する恐れがあるということで、賢がのっとったままにしていた。


 現在彼女の体には回復魔法による治療がされ、護衛付きの治療室で安静となっていた。

 ルーシーの人生では初めて、最高級のベッドで横になっていたのだが、その感覚は味わえずにいた。 

 仮に今彼女が主導権取り戻せば、ベッドの感触よりも全身の激痛を味わうことになるだろう。

 下手をすれば、そのまま臨死体験である。


『そ、そっか……』

「ごめんな、君の体をここまでにして。もうちょっと良くなったら、ちゃんと君に返すからさ」

『ちょっと怖いな……』


 改めて、二人は黙った。

 静寂というにはあまりにも心情が揺れ動く中で、ルーシーは迷っていた。

 言いたいことがたくさんありすぎて、整理ができなかった。


 賢の存在を知ったのは少し前の話だったが、今日はそこから一気に話が動いた。

 ただ強大な守護霊がついていただけなのに、いきなり魔神の試練を超えるという目標を得てしまった。

 彼女は自分で選んだとはいえ、危険が伴う冒険をしなければならないのである。


(やっぱり、痛いんだろうな~~)


 ルーシーは賢の力を借りて戦って、初戦の時点で既に痛い目を見ていた。

 賢の力を借りても、戦うことは簡単ではない。死なないとしても痛い目は見るし、カッコ悪く怖気づくこともあるのだ。

 だからこそ逆に、賢が1000レベルの力を発揮したときには、その無茶さに驚いたのだが。


 それでも、ただかわいそうというだけで、敵だったレオン王子に救いの手を出してしまうのだから、痛い目が足りないのかもしれない。

 しかし、自分に一切得がなくても試練を受けるというのは、彼女のいいところではあるのだろう。


「本当にごめんな」


 彼女の守護霊であろうとしている賢にできることは、彼女の意思を尊重しつつ、可能な限り身を守ることだけだった。


『え、な、何が?』


 自分の声で話しかけられることに戸惑いつつも、ルーシーは尋ね返す。

 なにせ今日は色々あった。賢が語っただけのこと、隠していたこと、騙していたことが全部明らかになってしまったのだから。


「嘘をついたことや、巻き込んでしまったことだよ」


 そのすべてを、賢は謝っていた。


「でもこれだけは信じてくれ。俺は君のことを、何よりも大切に想っている。君だけじゃなく、君のお父さんやお母さんのことも、とても大事にしたいと思っているんだ」


 そうしたいと思っているのに、傷つけてしまっていることを悔やんでいた。


「昔の仲間を忘れたわけじゃないし、どうでもいいと思っているわけじゃない。今更だけど、生きていた時よりも大事に思っている。でも、それでも君のほうが大事なんだ」

『……どうして?』


 賢には仲間がいた。

 最後には裏切られてしまったけど、すれ違ってしまったけど、一緒に頑張っていた大事な仲間がいた。

 その彼らよりも、大事にされるなんて意味が分からない。

 そんな価値があるとは、ルーシー自身に思えなかった。


「俺はずっと君を見ていたからだよ。こんなことを言ったら気持ち悪いかもしれないが、俺は君のことを娘や妹のように思っている。その君が、俺のせいで不幸になるなんて耐えられないんだ」


 親愛がそこにあった。

 情熱と言えるほどの温度はなくとも、熱量では劣っていなかった。


「だから、嫌になったら投げ出してくれ。桜花が地獄に落ちても、いろんな意味で自業自得だ。あいつのために、君が嫌な思いをすることはないんだ」

『あのさ』

「なんだい?」

『……なんか、性格が全然違うと思うんだけど』


 別種の沈黙が、二人の間に流れた。


『ほら、昔の記憶とかさ、レオン王子様への態度が、いつもと全然違うと思うんだけど……』


 自覚しているからこそ、賢は中々答えられなかった。


『なんか、違うな~~って。無理してない?』


 答えにくかったが、答えないわけにはいかないわけで。

 胸が痛むが、胸だけではなく全身も痛いわけで。


「死んだらバカが治ったというか……」

『遅いよ……かなり遅いよ……』

「わかってるよ。っていうかさ、ルーシー……君とかオーリちゃんみたいな子たちへの態度と、同い年だった桜花たちへの態度が同じの方がまずいんじゃないか?」


 長いこと死んでいたので、角が取れたということもあるのだろう。

 だがそれ以前に、同い年の男友達と年下の少女たちでは、態度が違うのが当然ではないだろうか。


『演技だったんだ……』

「いや、演技って……」


 確かに素のままで、ありのままで相手をしていたわけではない。

 しかし気を使っていたのと、演技をしていたのでは、言い方が全然違う。

 少なくともルーシーは、賢に対して不信感を覚えているようだった。


『なんか、無理してるな~~って思ってたんだけど、やっぱり嘘ついてたんだ』

「君だって赤ちゃんへの態度と王様への態度は全然違うだろう?! 同じだったら問題だろう?!」

『ええ? それとこれとは違うような気が……』

「同じだって! むしろ、これは気遣いだよ! 俺の成長の証だよ!」


 大きな声を出しているせいで、ますます痛むルーシーの肉体。

 しかし賢は、必死になって否定していた。

 確かに嘘をついてはいたが、悪意はかけらもなかったのだから。


「……桜花にもいったけど、俺は昔の話し方を後悔しているんだ。俺がもっと素直に心の内を話していたら、あんなことにならずにすんだんじゃないかって。君も言ってただろう、俺はいじめっ子っぽいところがあったんだよ」


 実際に痛い目を見たというか、実際に死んで思うところはあった。

 友人たちが大真面目に警告してくれていたことを、死んでからようやく理解していたのだ


「殴ることは悪いことだけど、ひどいことを言うのだって同じぐらい悪いんだ。それこそ、殺されてもおかしくないほどに」

『そうだね……』


 桜花が賢を殺したとき、手柄を横取りしたという邪悪な笑みを浮かべてはいなかった。

 むしろ苦悶で悲痛で、自分が刺されたかのような顔をしていた。


「だから、君を傷つけないように気を使ったんだ。それが演技だと思われたんなら謝るけどさ……あんな(・・・)俺は嫌だろう?」

『……そうだけどさ、難しいね』

「そうなんだよ、難しいんだ」


 思ったことをそのまま伝えても、相手を傷つけることはある。

 相手を気遣って言葉を選んでも、結果として相手から不審がられることもある。

 一つ言えることがあるとすれば、簡単だと思ってはいけないということだ。


「人と人が、ちゃんと友達になったりお互いを好きになるのは、とても難しいんだよ」


 二人は同時に思い出したのは、この国の第一王子と第二王子だった。


『ねえ、ケン。私ってもしかして、第一王子様にとってもひどいことを言っちゃったかな?』

「そうだな」


 彼は怒っていた。

 演技でもなんでもなく、心底から悔しそうに、腹の底から泣き叫びながら怒っていた。

 自分の性格が歪んでいることを自覚し、それに対して劣等感を感じながらも、全力で怒っていた。


『私ね、ケンのこともかわいそうだと思ったけど、レオン王子様のこともかわいそうだって思ってたの。蹴っ飛ばしてた第一王子様は、ちょっとやり過ぎだって思ってたぐらいで……』


 しかしそれは、少し考えればわかることだった。

 もちろんそれは、子供であるルーシーには難しいことだ。

 だが子供だからと言って、悪気がないからと言って、何を言ってもいいというわけではない。


「どっちもかわいそうな奴だ。だが、悪いのは桜花の方で、非がないのは第一王子様の方だ。少なくとも桜花は、自分を褒めてもらうために、兄を傷つけると知ったうえで優れた面を押し出していた。本当に可哀そうな話だ、桜花は自分がかわいそうな奴だからって、もっと可哀そうな奴を作っていたんだからな」

『……謝ったら、許してくれるかな?』


 もしも今、ルーシーに肉体があったのなら、肉体の主導権を取り戻していたのなら。

 きっと、涙を流して嗚咽していたに違いない。


「わからない。もしかしたら、会ってもくれないかもしれない」

『そうだよね、ひどいこと言っちゃったもんね……』

「だけど、会ってくれたら、その時はちゃんと謝ろう。もちろん、その時は俺も一緒さ」

『うん、お願い』



森野賢



職業構成

基本職 騎士、蛮族、衛兵、侍、格闘家。

上位職 聖騎士、蛮族王、近衛兵、侍大将、格闘王。



能力値


フィジカルスペック A 体力、攻撃力、防御力がバランスよく高い

マジックスペック なし MPや魔力、魔法防御力がない。

魔法 なし 習得していない。

スキル A 攻守のスキルをバランスよく得ている。

武装 なし 特別な装備ができない。



評価

 

装備や魔法を捨てて、スキルと基礎能力に全振りした、純粋な自己完結型の前衛。

最強の拳と無敵の肉体をもつ、完成された前衛の一種。

そういうと恰好がいいが、実際にはそこまで有用というわけではない。


割合ダメージやダメージボーナスなどの、メインアタッカーに必要な力を装備やスキルで補えていないので、対人戦ならともかくモンスター相手だと一撃で倒せないこともしばしば。

一度に一体ずつしか攻撃できないこともあって、多数が出てくると処理が追い付かないし、強敵を相手にしてもダメージソースとしてみるには物足りない。

なによりも、相手の弱点を突くということができない。素で殴ることしかできない。


また、タンクとしても見れない。

ダメージ半減や常時自己回復などの盾役として有用な能力を持っていない上に、そもそも仲間を守るためのスキルを持っていない。

よって、とても頑丈なだけ、自分が死なないというだけである。


エースにもタンクにも成れない、中途半端な、悪い意味での自己完結型前衛である。

……というのが、桜花からの評価だった。



パーティー内での役割


最後の砦ないし殿(しんがり)要員。


他の勇者たちはMPがすぐ尽きる、単体だと弱い、戦闘能力がないなどの弱点があり、パーティー内で補完し合っている。

だが逆に言うと、仲間が一人でも欠けると一気に瓦解するということでもある。効率を優先し過ぎて、安定感にかけているともいう。

状態異常や弱体化などのデバフを装備や魔法で補っているため、想定していない攻撃にも弱い。

石化無効のアクセサリーを付けていたら毒をくらったとか、防御力低下無効の鎧を着ていたら俊敏性を低下させられた、など。


賢の場合は逆に、ソロでも通用するほどに弱点がない。装備や補助魔法抜きでも『最悪の事態』への対策ができているため、想定外ということがない。

どんな敵でも一撃で倒せる、というほどではないが、どんな相手にも攻撃が通じる。殴り続けていれば倒すことができる。

どんな攻撃を受けても傷一つ負わない、というほどではないが、どんな攻撃にも耐えることができる。殺される前に殴り殺すことができる。

敵を全滅させるのに時間がかかったり、あるいは手傷を負うことがあっても、『詰む』ということがない。


柔軟性や効率を度外視した、不器用ながらも安定している戦士。

仲間が倒れても、一人で戦い続ける前衛(フォワード)

不意の事故、初見殺しへの対策要員。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ