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勇者は立ち上がり俺の真正面に立った。
チッ。整った顔は何回見てもムカつくな。
「私の名前を知っているかい?」
「知らない。というか勇者がいる事自体知らなかったからな俺」
「そうなのか?まあ良い。私は名前を隠している。それこそ国王にもだ」
「国王にも?」
「ああ。教えていない。それが私の秘密だからだ」
「は?」
こいつ何言ってるんだ?
それが秘密とか……意味が分からん。
「まあ、そういう顔にはなるよな。分かっている。意味が分からないという事は。ただそれを分かった上でマサキに私の名前を教える」
勇者はふざけてる訳じゃなさそうだ。
「ただ、私の秘密を知っても……その……」
「引かないし誰にも言わない。というか、それだけ言って言わないとか気になりすぎるから!!」
「わ、分かった」
勇者は深呼吸をする。
名前を言うだけでなんでこんなに緊張してるんだ?
いや、まてよ。嫌な予感しかしない。
「ちょっ「私の名前はアメリだ」言っちゃったよ」
勇者……アメリがそう言った瞬間勇者が眩しく光った。
アメリ?……え?
女性の名前?
いや、まてよ。アメリという名前だけで女性だとは思っちゃいけない。それこそ先入観に囚われちゃうダメだ。
名前自体に意味は無く言うことで何かしらの呪いが発動するとか?
もしかしたら名前が意味があって勇者に関わる……
「これが私の秘密だ」
「やっぱり女性かーーい!!」
光が収まりそこにいたのは俺の首くらいまでの身長で、金髪なのだが長さが腰まであり顔は……まあ、あのイケメンが可愛くなった感じ。それこそリューネ達に劣らず綺麗だ。
俺は勇者から少しずつ下がる。
「何故逃げる」
「いや、なんとなくだ」
「……マサキも女だから馬鹿にするのか?」
「ん?女だろうが男だろうが馬鹿にはしない。ただめんどくさい事はもうこれ以上はお腹イッパイなんだよ」
団長やあの王女。精霊王にドラゴンの王。
それに追加で女勇者とかもうどんだけ混沌なパーティなんだよ。
「マサキは勇者が女だとやはり嫌か?」
「勇者が嫌です。男だろうが女だろうが誰だろうが。俺は多分人と感性が違うからそう思うんだ。だからジリジリと俺に近づくんじゃない!」
「面白いなマサキわ。“女が!”とか“気持ち悪い”とか言うと思っていた」
「悪いが俺が住んでいた場所は昔はあったみたいだが今は平等に近い。寧ろ努力と才能がモノを言う世界だから関係無いんだよ。だから、俺はそんな事を思わない。というかだな、リューネや団長やブラックを見てみろ。あいつら強いだろ?」
綺麗事は言うつもりない。ただ、周りに強い女性や男性がいるから自分が思う事を言っただけだ。
「……あの人と同じ事言ってる」
「あの人?」
「ううん。何でもない。さあマサキ。これが私の秘密。勇者は“女”という秘密。どうする?」
「え?正直アメリからしたら重要な秘密だろうけど……うん。そっか。ってしか思わない。それに関してはな」
「マサキはその秘密を知って色々しようと思わないのか?私は恐らくだがマサキには勝てない。だから、秘密をダシにしてあんな事やこんな事も出来るんだぞ?」
「俺は悪名代官か!?そんなことしないよ!つか、今までそんなことされたのか勇者なのに?」
「いや、無いさ。言っただろ?私は名前を秘密にしてる。つまり勇者の秘密を知っているのはマサキだけだ。今まで明かしたことが無いからこれからが怖い」
「いや、だからさ俺は何もしないって。アメリが好きなようにすれば良いんだよ。自分の人生の選択だ。自分で決めろ。あ、でも仲間になりたいならやっぱりリューネ達にも相談しないとな」
勝手に決めたらエミリアとかエミリアとかエミリアとかが煩いからな。
「フフ」
「何急に笑ってんだよ」
「いや、失礼。色々考えてた私が馬鹿みたいだなぁと思ってさ」
「ああ馬鹿だろうな。そんな秘密俺に言う時点でな」
「ああ大馬鹿だな私は。ただ、言ったことは間違いじゃなかった。選択は間違っていなかった。神の使いの……」
「神の使いの言葉通りってか?いや違うだろ?何を言われたのか分からないが、決断したのは自分自身だ。他人が決めたんじゃない。お前がお前の意思で決めたんだよ。異論は認めません!」
「……そうだな。私が決めたんだ。ありがとうマサキ」
「俺は何もしていない。自分自身で決めただけだよアメリ」
「それで聞かないのかい?」
「名前を教えただけで変わる魔法か?」
「そう。普通はさ真っ先に聞いてくるもんじゃないのかい?」
「まあ、確かに気にはなるけど聞いたところで分からない原理とか言われるのがオチだからなぁ。まあ、要は変身魔法だってことだろ?」
「簡単に言えばそうだね。呪いではない。昔にある人から教えてもらった禁忌魔法だ」
「禁忌魔法ね……」
「そう禁忌魔法さ。性別を変えるだけじゃないのさ。使い続ける限り魔力が増え続ける。意味が分かるかな?呪いとは別の昔々造られた魔法なのさ」
団長が掛かっていた呪いの別バージョンの魔法か。
「そこらへんの詳しい話はやめておこう。どうせ知ったところで使えるわけじゃないし」
呪いとか禁忌魔法とか関わりたくない。
「そうだな。その話はやめよう」
そう言うと勇者は小さい声で何かを唱えた。
唱えた後、勇者が光った。
「こっちの姿に戻った方がやはり安心出来る」
女から男に戻った勇者。
「ああ、俺もそっちの方が助かる。というかだ、その男の時にはなんで言えば良いんだ?アメリじゃあマズいだろ?」
「そうだな。おい、とかお前とかで良いんじゃないかな?それとも勇者様とほかの奴らが言っている言葉を使うか?」
「絶対勇者様って言わねー。なら、適当に呼ぶわ」
「分かったよ。好きに呼んでくれ」
勇者は背伸びをする。
「んー、久々に正体を明かしたな。なんか楽になったよ」
それはそれは清々しいくらいの笑顔だった。
あぶねー。男の俺がチョットドキッとしたよ。これが女バージョンだったら危なかったね!
「どうしたんだいマサキ?」
「なんでもねーよ!」
「そうかい?なら良いけど。さて、話はまとまったし私はマサキの決定に従うよ」
「とりあえずはリューネ達と合流だ。話はそこからだ」
「合流したいけど……どうやってだい?一応前から魔力を探知しているけど感じられないんだよね」
「まあ俺も分からないが、そんな時はこいつに頼る!」
俺は腕の鎖を見せた。
俺が右腕を出したら鎖が青く光り始めた。
「なんだいこれは?これの力は初めて会った時には無かったものだよね?変な力だ。私はこの力に気絶させられた」
勇者は俺の右腕の鎖を恐らく魔力探知しながら見ている。
「俺もよく分からないけど特に害は無いし、それに使えるもんは使わなくちゃな。躊躇して使わなかった事に後悔するくらいなら俺は使って責任を勇者達に押し付ける選択を選ぶ!」
「いや、その選択は正しいのかい?」
「ええい!細かい事は良いんだよ!とりあえず作動!」
《仲間達の方へ向かいますか?》
頭にあの機械音が聞こえる。
「ああ、頼む!」
《了解です。しかし、気をつけてください。お仲間達は只今戦闘中です》
「え?戦闘中?」
俺が間抜けな声を出したと同時に俺と勇者は光に包まれ草原から消えた。




