26
幽霊。
突然だが幽霊を信じますか?
昔からある話題だ。
俺は信じない。
というか見た事が無いので信じないだけだ。
日本にいた時はテレビとかでそういう特集を見たりするが…全く怖く無い。
まあ、火がたたないところに煙は現れないのと同じで実際いるのだろう。じゃなきゃ人間そういう“視えない”何かについて話は出ない。
何でこういう話をするのかって?
実は…
「俺は寝たいんだが」
「そ、そそそんなこと言って逃げるつもりだな!?」
エミリアが涙目で俺の服を引っ張る。
その様子をため息つきながら周りを見渡す。
団長も涙目ながら周りを警戒する。
タマはトコトコと俺の後ろをついてくる。
旅を出て2日。
特にこれといったイベントは無く順調に進んでいた。
魔物は出てくるが団長とタマがあっさり片付けてくれるので…暇なんだよ。
初日は野宿だったのだが、近くに村があったので2日目はそこに泊まらせてもらうことにした。
贅沢は言えない。
屋根があるだけでも有難い。
と、宿の手続きをしてたら
「冒険者さん達はアンデット系の魔物を倒した事がありますか?」
と、宿のおばちゃんがそう言ってきた。
アンデットか…。
俺は今まで無いな。
「何かあったのですか?」
団長がおばちゃんに聞く。
どうやら、この村の近くにアンデット…つまりゾンビとかが最近出るらしい。
で、その影響か村に幽霊が出るらしい。
「はん!幽霊って」
俺が鼻で笑うが村の人達は困っているらしい。
仕方ないので、安くしてもらうのを条件にアンデットを退治することになったのだ。
村の外に出るアンデットはリューネとブラックに任せることにした。
あの2人なら多分だがオーバーキルで殲滅してくれそうだ。
残った俺達は幽霊が出るという時間帯に村を徘徊してるわけなんだが…
エミリアと団長は使い物にならない。
いつもキリッとしてる団長は腰が引けせわしなく辺りを見渡してる。
エミリアはもう邪魔だから寝てて欲しいレベルだ。
で、冒頭に戻るわけだ。
「しかし、この世界に来て幽霊退治とか…」
使えない2人にはいい囮になってもらおう。
しかし、現れないな。
時間的に丑三つ時に現れるらしい。
特に被害などは無いらしいが、怖いらしく子供達がグッスリ寝れないみたいだ。
と、何処にいるのか分からなく帰りたくなった時、不意に団長が固まる。
「どうした?ションベンでも漏らしたか?」
だが、団長から反応は無い。
おかしいな、と思いながら団長の顔を見ると…
「白目むいて気絶してる!?むしろこの顔の方が怖いわ!!」
「マスターあれ」
タマが指差したところには辺りが真っ暗にも関わらずその子は見えた。
白い着物にオカッパ頭の女の子だ。
だが、ずっとこっちを見て動かない。
「おい、大丈夫か?」
女の子に近づこうとした時、不意に後ろから誰かに叩かれた。
ゆっくり後ろを見ると…
「何でそこにいるの?」
白い着物を着た女の子がこちらをずっと見てる。
だから…
「 君が幽霊かい?」
普通に聞いた。
オカッパの女の子は頷き
「私を見た人間には…呪いをかけてイタッ!?」
話してる最中にオカッパの女の子の頭をパチコーンと叩いた。
女の子は頭をさすりながら俺から若干距離を離す。
「もう呪いとか良いから!!これ以上呪いとかかけるなら…」
女の子に近づき
「お尻ペンペンするぞ!!」
オカッパの女の子の頭をガシッと掴む。
「あれ?あれれ?何で触れるの?というか怖く無いの!?」
「やっかましい!!俺は幽霊とか信じないたちなんでな。さあ、こっからどうしてやろうか!」
「イタタタ!!お兄さん本当に冒険者!?聖職者とかじゃないの!?イタタタ!すいません!ほんと悪さしないんで離してください!!」
オカッパの女の子は泣いてしまった。
俺は手を離し倒れ込んだ女の子をジーッと見る。
こいつ、足あるじゃねぇか。
「なあ、見た目に反して口調が子供じゃない気がするんだが」
「…こう見えても死んだのは100年ほど前よ」
「ババアじゃねぇか!?」
「ババア言うな!!」
ゲシゲシと俺のすねを蹴ってくる。
「地味に痛いから!…つか、幽霊なのになんで足あるんだよ」
「気付いたら足あったのよ。というか、ほんとに冒険者なの?そっちの2人みたいに怖がるわけでもないし」
そっちの2人?
ああ、気絶してる団長とエミリアの事か。
ほんとこいつら何しに来たんだよ。
「冒険者だよ!お前が夜な夜な現れるせいで村の人達が安心して寝れないみたいなんだよ。だから、成仏させてやるよ!」
「痛い痛い!!頭を掴むのはやめて!?」
ギリギリと頭を強く握るのだが涙目になってるので仕方なく離した。
「もう嫌だ…。久々に話し相手が出来たと思ったら変な冒険者だし」
「変な冒険者とか言うな!つか、おまえこの村の人間だったのか?」
「まあね。でも死んでからは村にはいなかったわ。ずっと村の外にある小さい洞窟にいたわ。あの忌々しいゾンビたちが来るまでは!」
と、プンプンしてる。
つまりだ、ゾンビたちが来たことによりこの幽霊は村に来たわけか。
「なら、今俺の仲間がゾンビたちを殲滅してくれてると思うからさっさと村から出て洞窟に戻りな」
「成仏させに来たわけじゃないの?」
「村から居なくなりゃ良い話だからね。無理に退治しねーよ。それとも何か?成仏したいなら話は別だが」
「洞窟に戻ります!!」
両指をせわしなく動かすと女の子は全力で頭を横に振り否定した。
俺と女の子は村の外まで来た。
タマに団長とエミリアの処理を頼んだ。
「なあ、一つさ聞きたいんだが」
「な、なんでしょう?」
また怒られるのかと思ったのか顔が引きつっている。
「そんなあからさまな表情を出さなくても…。まあいいや。俺と話してる時呪いがどうのこうの言ってたが呪いをかけれるのか?」
「ああ。あれは嘘だ!」
「嘘かい!!」
なんなんだこの幽霊は。
俺の冷たい視線を物ともせず洞窟へ歩いてく幽霊。
気のせいかな?
なんか嬉しそうなんだが。
「どうしたのマサキ。そんな小さい女の子を連れて外に来るなんて。まさか…」
「おいリューネ。何勘違いしてんだ?というかお前ワザと言ってるだろ!?」
あと少しで洞窟に着くというところでリューネとブラックに会った。
「ふふ。それよりこっちは終わったわよ」
「早いな…いや、こんなもんか」
まあ伊達に王が2人いるからね。
「こっちもこのオカッパババアが原因だったらしく今洞窟に連れてくとこよ」
「ババアってまた言った!!」
脛を蹴ってくるババアを一旦置いておいて
「この子がね…」
リューネが珍しく興味を持った目で見てる。
それに気付いたら幽霊は俺の後ろへと隠れる。
「なんかとても嫌な感じがするぞこいつ!!」
涙目になりながら俺から離れない。
いや、気持ちは分かるよ。
リューネから発する調べたい欲がこっちにも伝わってくるもん。
「リューネやめてあげて。こいつを洞窟に連れてけば今回の依頼は終わりだ」
ラチがあかないので歩き始める。
幽霊もフワフワ浮くんじゃなく歩いている。
この世界の幽霊は歩くのか?
「ね、この子だいぶ力あるわね」
一緒に歩きながら幽霊をジーッと見て言う。
「力?」
「死んでから現実に形を留めるには死ぬ前の体にある程度魔力と強い意志がないと出来ないのよ。この子は足まであるからだいぶ強い魔力と意志があるのよ」
「へ~」
確か死んでから100年ほどって言ってたよな。
うーん。
あまり関わりたくないし洞窟に着いたら放置して帰ろう。
着いた洞窟は高さは人2人分くらいで奥に広がってはいるがそこまで大きくなく、印象的には雨宿りするだけの洞窟みたいだな。
「さ、着いたし村には来るなよ」
幽霊にそう言って帰ろうとすると捕まられた。
「…なんだよ」
下を向きながらズボンを掴む幽霊。
「つ、都合の良い話だとは思っているんだがある人物を探して欲しいんだ」
「断る」
「何故じゃ!?そこは話を聞いたお前さんが探してくれるところだろ!?」
「そういうテンプレートな展開に誰が持っていくか!!」
だから困るんだよ。
リューネが言っていた強い意志ってのはようは生きていた頃の想いって話だ。
ここに来る時点で話は読めてた。
「まあまあ、マサキ話だけでも聞いたら?」
と、珍しくリューネが意欲ある。
その言葉に幽霊はパアッと顔を明るくした。
「仕方ない。無理難題を言ってくるなら成仏という名の魔法でリューネがボコボコにするからな」
「悪魔だ…いや、なんも言ってない!!だから指を動かしながら来ないでくれ!!」
このままじゃラチがあかないので話を聞く。
「実はな、私には夫となる予定の男がいたんじゃ」
「惚気か?成仏させるぞコラ」
「は、話を最後まで聞かんかい! …予定と言ったであろうが!」
「予定?」
「ああ。私は死んだ」
その言葉にどう反応すれば良いのかわからない。
「私が生きてた頃はこの辺は食べれる野草がたくさんあってな、それを採取しているうちにこの洞窟にいた魔物に殺された」
普通は魔物がいる場所には近づかないのが力無きものの生き方なんだがな。
「実は、その時夫となる男高熱に侵されてて、薬を作る必要があったのよ。で、薬の原料となる野草がここら辺にしかなく…まぁ、あれだ。助けたい一心で来たんだが死んでしまったのよ」
頬をかきながら恥ずかしそうに言う。
「で、死んでから幽霊となってこの洞窟にいたわけか。村には行かなかったのか?」
普通なら洞窟じゃなく村に戻りそうなんだがな。
「私が幽霊となり自覚が目覚めた時にはもういなかったのだよ」
つまり、こいつが幽霊となり村に行った時どれだけの年月が経っていたのだろうか。
「ん?待てよ。何で100年前に死んだって分かってるんだ?自覚したのがどれくらい年月が経っているのか分からないはずだろ?」
その疑問に答えたのはリューネだった。
「洞窟の奥に刻まれていた。名前と年月が」
「そうなのだ。私もそれを見て死んだのがいつだったのかを知ってる」
なるほど。
それなら死んだのがいつかわかるな。
「まあ、でもその男も死んでるだろ?」
100年前の話だ。
生きてる方がおかしい。
「死んでるからこそ貴方に探して欲しいんだ」
「意味が分からない」
死んでるからこそ俺に探させる?
「貴方は私達に触れるし話せる。基本私達は見られる事はあっても話せないし触りもできない。聖職者以外は。だから、頼みたいんだ」
「リューネとかも話せるが?」
「なんか…本能的に彼女には頼りたくない。怖い」
ああ、人間的に精霊王が嫌なんだな。
「はぁ~。とりあえず探すが…見つかると思わない方が良いだろう」
「それは分かっている。村にいないのが分かっているから恐らく違う場所で死んでいると思う」
村にいなきゃ確かに違う場所で死んでいる可能性は高いな。
「因みに報酬は?まさか、何もない状態で俺に探させるとか考えてないだろうな?言っておくが報酬無しじゃ俺は動かないぜ!!」
それを言うと幽霊は自分の着物の中に手を入れた。
「これをやる。どうせ私にはいらないものだ」
幽霊から貰ったのは黒い綺麗な球だ。
「なんだこれ?」
「へ~珍しいもの持ってるわね」
リューネが感心するように球を見る。
「これは食べたらしばらくの間消える事が出来る【ブラックロスト】よ。魔力も消えるから暗殺とかにはもってこいのものよ」
「何でそんな物騒なものをお前が持ってるんだよ!?」
「男から貰ったのだよ。何かあった時は使えって。まあ使う前に殺されたから意味ないけどね!」
と、笑いながら言う。
笑えねえよ!
「とりあえず、名前はなんて言うんだよ。あと顔とか」
「顔は…年取っていたら分からない」
だろうな。
「仕方ない。名前だけで探すわ」
「名前は【シュルマール】って名前よ」
シュルマールね。
「ま、お前の要望は分かった。見つけ次第この洞窟に送ってやるよ。だから村であんまり怖がらすなよ?」
「仕方ないな。そこまで言うなら我慢してイタタタ!!」
俺は幽霊の頭を掴みキリキリと力を入れる。
こいつ、力で成仏させてやろうか。
「ったく。調子乗りやがって」
「…ほんと冒険者なのか不思議だよ~」
頭を掴むのをやめた。
幽霊は涙目ながら優しく自分の頭をさする。
「じゃあ俺達は行くが大人しく待ってろよ」
「待ってる!」
こうして俺達はゾンビ退治と迷惑な幽霊退治を終えた。
幽霊の方は退治なのかは微妙だが。
☆☆☆☆☆☆☆
ーー翌朝
「おい、役立たずども」
団長とエミリアに冷たい目線で言う。
「誰が役立たずだ!わ、私はマサキが幽霊を退治している間村を守っていたのだ!」
と、せわしなく目を左右に動かしながらエミリアは言う。
「マサキ殿。実は私は幽霊が苦手でして…」
「でしょうね!!昨日あんな酷い顔で気絶してたからね!」
「や、やめてください」
と、幽霊の事より顔について恥ずかしがる団長。
因みにエミリアには嘘をついたから一発頭を殴っておいた。
涙目になりあの幽霊と同じくスネを蹴ってくる。
「はぁ~。おい、さっさと行くぞ」
今日もまた目的地に向かって旅を再開したのだった。




