生きてるだけで凄い~全肯定生徒~
ジリリリリ。
カチャ。
僕は枕元の目覚まし時計を止めて、ベッドから身体を起こした。
いつも通りの朝。
階下に降りると母親が両眼を見開いてこっちを見ていた。
「そ、そんな?!毎朝6時半にきっちり起きるだなんて?!」
「目覚まし時計使ってるだけだよ」
苦笑しながら母親に説明する。大したことじゃないのになぁ。
それを聞いて、母親の隣にいた父親が驚きの声を上げた。
「ええっ?! あ、あの目覚まし時計を使っただと!? ……なんてことだ。ママ、うちの息子は天才だよ」
「ええ、なんてことでしょう……うう」
もう、大げさだなぁ。
そこに隣りから背の小さな女の子が飛びついてきた。
「もう、お兄ちゃん! 毎日ちゃんと起きられたら私が起こせないじゃないの! ぷんぷん」
「ははは、ごめんな妹」
妹の頭を撫でてなだめる。まったく甘えん坊でこまる。
さてと、朝ご飯だ。
僕はダイニングテーブルの自分の席についた。
テレビの電源がついている。
黒い画面を見ながらご飯を食べ始める。
「いただきます、毎日おいしいごはんをありがとう、お母さん」
「そ、そんな……ご飯のお礼を言うだなんて!? なんて優しい子なのかしら」
余りの衝撃に母親が涙ぐんでいる。
しかしこれでは済ませない、まだまだこれからだ。
僕はお盆の上に箸と食器を重ねて持ち上げた。
「ごちそうさま、片づけておくね」
両親が驚愕のあまりに数秒フリーズしてからやっと話し出す。
「……後片付けをしただとっ?!」
「……なんて礼儀正しいのかしら?! ほら、妹もちゃんと見習いなさい」
「そんなー、これはお兄ちゃんだからできるんだよ……」
妹が言い訳をする。言い訳をするなんてダメな子だ。
ちゃんとしつけないと。
僕は妹に向かって話しかけた。
「妹、ちゃんとやったほうがいいよ」
「うん、わかったよお兄ちゃん!」
そういうと妹は自分のお盆に食器を載せて台所に運ぶ。
「ああ、妹のしつけも完璧だなんて」
「素晴らしい息子を育てられて俺は嬉しいよママ」
「……すごい、お兄ちゃんの助言のお陰でちゃんと後片付けができたよ!?」
「やればできる子なんだよ妹は」
妹が興奮で顔を真っ赤にして抱き着いてきた。大げさだなぁ。
― ― ―
学校の準備をする。
今日の傘は必要かな? 灰は降ってたっけ?
「ごめんね、毎日過酷な学校に行かせるなんてひどい親で」
「いいえ、学校は楽しいですよ?」
「ああ、なんて優しい子なの。あなたの母親で幸せだわ」
両親と妹が泣きながら登校する僕を見送ってくれた。
玄関から外に出る。
いつもの登校ルート。
太陽が見える。とても天気が良い。
鼻歌を歌い、軽くスキップをしながら登校する。
おっとガレキだ危ないな。
チリンチリン……
数名の女子高生が自転車に乗って通りかかった。スカートを折り込んでミニにしている子が多く、太ももがまぶしい。
でも、そこは控えめな方が好みなんだよな。
その中でもスカートが長めの子が声をかけてきた。そう、幼馴染だ。
「あ、■■■■くん!! …って歩いているの?!」
「おはよう、幼馴染。そりゃあ校則だからね、歩くさ」
「そ、そんな……校則を守ってて歩いて登校するだなんて、なんてマジメなの」
幼馴染が目を丸くして驚く。
「マジメじゃないよ、普通だから幼馴染も徒歩で登校するといいよ、天気もいいし」
「私にまで気を使ってくれるなんて、優しい!!」
幼馴染は大喜びで自転車から降りた。
二人並んで一緒に登校をする。
夏だからミーンミーンと蝉が鳴いているころだろう。
ミーンミーン……
セミの鳴き声が耳を叩く。歩いていると体温が上がってきた。
軽く汗をかくととても気持ちがいい。
幼馴染は黒髪ストレートで小さなカチューシャをしていて、セーラー服が良く似合っている。
スカート丈はちょっと長め。ちゃんと控えめだ。
胸とお尻が程よく膨らんでいて、歩くと少し揺れている。
「あ、あの……、私、■■■■くんと登校出来て幸せ……」
「そうだね、天気もいいし」
軽い会話などを楽しみつつ、そのまま校門にたどり着いた。
ダダダダッ!!!
バキュン! バキュン! バキュン!!
校門では生活指導の先生が自転車通学の生徒を射殺している。
火を噴く大口径のマシンガン。派手に吹き飛ぶモブ生徒。
歩いていて良かった。胸をなでおろす。
「■■■■くんの助言のおかげで、助かったわ、ありがとう!」
幼馴染が抱き着いてきた。
大げさだなぁ。
― ― ―
教室についた。
幼馴染とは別の教室なので、別れて自分の教室に入った。
隣りの席の巨乳眼鏡三つ編み委員長に挨拶して着席する。
「おはよう、委員長」
「おはよう……えっ、そんな……■■■■さんって自分から挨拶するなんて……なんて立派なの!?」
委員長は驚きのあまり、落としそうになった眼鏡を手で押さえながら言った。
おおげさだなぁ。
さて、時間割は……と。
うん、次の時間は社会の中間テストだな。
では教科書を出して予習しよう。
うん、ちゃんと出題範囲に線が引いてあるな。あとは覚えるだけだ。
ガタッ?!
すると隣の席の委員長が立ち上がり、信じられないようなものを見た顔でこちらを見た。
衝撃で胸が揺れている。大きいな。いいことだ。
「……■■■■さん、アナタまさか……予習を?」
「生徒として当然だからね」
「し、信じられない……なんてマジメな……東大出官僚で将来の総理大臣間違いなしじゃないの!?」
「ははは、おおげさだなぁ。あ、委員長も予習したほうがいいよ?」
「う、分かったわ……で、でもどこを読めばいいか」
「うん、出題範囲はこことここと……」
委員長に教えながら自分も覚える。こうやって人に教えると記憶力が活性化されると何かで読んだのだ。
「全員座れーーテストだ!」
教師がやってきて、テスト用紙が配られた。
うん、予習がばっちりだ。8割ぐらい埋まったかな?
周りを見ると、皆は苦戦している中で、委員長はめきめき埋めているようだ。
「はい、時間だ。鉛筆をおけー。回収!!」
教師がテストを回収した。
「では発表する。 トップは■■■■、72点!」
「おおおお!?」
教室中がどよめく。
モブ生徒が言う。
「なんて、ちょうどいい点数なんだ!」
「高すぎず低すぎず!」
「聖なる点数だ!?」
「次に委員長が70点……ちゃんと勉強したな偉いぞ」
教師に褒められて委員長が真っ赤に照れながらこちらに振り向いた。
「ありがとう……■■■■さんのお陰よ、まさかこんな点が取れるなんて……予習なんて思いつきもしなかったわ」
そこまで感謝しなくていいのに、おおげさだなぁ。
「で、あとは赤点だな」
教師が教壇の上のボタンを押すと、僕と委員長以外の全生徒が床の穴に落ちて消えて行った。
― ― ―
体育の時間だ。
体操服に着替えてグラウンドに出た。
夏の日差しが照り付けるようで少し暑すぎる。
うん、いい具合に雲が出てきて涼しい。
体育は隣のクラスと合同なので、校庭にはブルマの体操服に身を包んだ幼馴染と委員長が一緒である。
遠くにモブ生徒も見える。
さてと、準備運動でもするか。
「おいっちにー、さんしー」
そんな僕を体育教師が見て驚きのあまり咥えていた笛を落としていた。
「なっ……■■■■、おまえ……まさか、準備運動をしているのか?!」
「ええ、ケガの防止になりますし」
僕はこともなげに答えた。
それを見て委員長と幼馴染が驚きのあまりに声を上げる。
「まさか。■■■■さんの準備運動って、あの体温を運動に適した温度に上昇させて、筋肉や腱の柔軟性を高め、そして関節の可動域を高めるというあの?!」
「そんな……■■■■くんがあの準備運動!? 軽い運動をすることで血行をよくし、アドレナリンを分泌させて、心身共に本格的な運動に備えるだなんて……なんて天才なの!?」
ずいぶん詳しいな。この間本を読んだっけ。
「良く知ってるね、じゃあ一緒に準備運動しようか」
「■■■■さん……いいの?!」
「■■■■くん……優しい……ありがとう!」
頬を赤らめる幼馴染と委員長と一緒に準備運動する。身体を動かすたびに胸とか胸が揺れてとてもいい感じである。
「さっ、本番だ。ボールをけるぞー!」
僕はゴールに向けてボールを蹴り込んだ。ネットが揺れる。
うおおおおおお!!!
見学のモブ学生たちから歓声があがる。
それを見た教師が感涙のあまりに地面に倒れ込んだ。
「ゴーーーーール!!! ■■■■、すごいじゃないか! ボールをゴールに蹴り込むだなんて!!」
「信じられない……■■■■さん、カッコいい……」
「■■■■くん、ゴールよ! すごい! すごい!!!」
スコアボードに「史上最高得点!」と表示された。
スコアボードまでそんなに、おおげさだなぁ。
― ― ―
家に帰った。
玄関に入り、僕の顔を見ると両親が震えながら抱き着いてきた。
「おお、息子よ! ちゃんと家に帰ってくるなんてなんてすごいんだ!」
「パパの言う通りよ! 本当に自慢の息子だわ!」
「もう、家に帰るなんて普通だよ、おおげさだなぁ」
うん、でも暑かったし、汗もかいたからお風呂がいいな。
よし、お風呂も焚けているようだし、はいるか。
「お兄ちゃん!? まさか……お風呂に入るの?!」
脱衣所の前で妹が驚きの声を上げた。
「ああ、汗をかいたからね」
「そんな、なんて清潔で綺麗好きなの、すごい……」
「妹も入ったほうがいいよ、お風呂はほら、なんかすごい効果があるんだ」
「そういえば……たしか気分がリラックスしたり、血行が良くなったり、身体が温まって疲れが取れて免疫も活性化するとか……」
「さぁ、一緒に入ろうか」
「えっ……いいのお兄ちゃん、優しい……」
ぽっと頬を染める妹を連れて脱衣所に入る。
まだ控えめな胸元のボタンを外して、服を脱がせる。
妹はちょっと恥ずかしがっていたが、黙って脱がされるままになっていた。
「はい、ばんざーい」
服の下から白い素肌が顔を覗かせる。
ちょっと光っててよく見えないが、妹の身体を見る趣味はないから大丈夫だ。
一緒にお風呂場に、妹を洗ったり、洗われたりしてとてもリフレッシュした。いいことだ。
脱衣所でパジャマに着替えた。うん、さっぱり。
「ほら、妹もパジャマに着替えたほうがいいよ」
着替えさせる。
「すごい! お風呂に入ってパジャマに着替えたら、こんなにさっぱりするなんて……お兄ちゃんのおかげよ、ありがとう!」
おおげさだなぁ。
― ― ―
パジャマに着替えたので寝ることにした。
二階の自分の部屋に入る。
「ベッドで寝るなんてお兄ちゃんってやっぱり……」
「寝なさい」
「ぐー」
妹が何か言い出したので、ベッドに放り込んで寝かしつける。
その幸せそうな寝顔をみながら、僕も同じベッドに入った。
妹の体温を感じながら、ゆっくりと布団を温めて心地よい眠りに包まれていく。
ゴトン。
窓ガラスが外れて幼馴染が入ってきた。パジャマ姿だ。
ガタン。
天井のパネルが外れて、委員長が落ちてきた。同じくパジャマ姿だ。
「■■■■くん好きです、抱いてください!」
「■■■■さん好きです、抱いてください!」
ううん、困ったなぁ。二人とも魅力的なのに同時に抱いてだなんて。
「むーー、何このおばさん二人。お兄ちゃんは私が大好きなの! 私とせっくすするのー!!」
見ると妹も起き上がっている。もちろんパジャマ姿だ。
むー、妹とセックスするのはどうかと思うが、好かれるのはいい気分だ。
しかし三人は睨み合って、言い合いを始めた。
「■■■■くんのすごさ知らないんでしょう! だって息してるのよ! 肺胞で酸素と二酸化炭素を交換するなんて信じられないでしょう!?」
「■■■■さんがいかに偉大かわからないのね、目で見たり、喋ったりできるの! 脳神経が稼働しているのよ!? 人類史上に残る快挙だわ!」
「お兄ちゃんの伝説はね! 細胞内のミトコンドリアで、高エネルギーリン酸結合をつくって、さらにアデノシン三リン酸から−30.5 kJ/molものエネルギーを取り出せるのよ! こんなのありえないと思わないの?!」
大げさだなぁ。
「大げさじゃないわよ」
三人がこっちを見た。
「お兄ちゃんは生きてるだけですごいの」
「■■■■くんは生きてるだけですごいのよ」
「■■■■さんは生きてるだけで凄いんだから」
三人がこっちを見ている。
妹の目が黒い。
委員長の目が黒い。
幼馴染の目が黒い。
「だって」
「生きてるの」
「お兄ちゃん」「■■■■くん」「■■■■さん」
「だけだもの」
― ― ―
ジリリリリ。
カチャ。
僕は枕元の目覚まし時計を止めて、ベッドから身体を起こした。
あー、失敗した。
思い出しちゃ駄目じゃん。
まー、ちょっと途中から世界観が崩壊してたからあのイメージはちょっと無理だったかもしれない。
次はもう少し頑張ってみよう。
だって、せっかくなんでも自分の思い通りになる世界になったんだから。
窓の外には、見渡す限りの廃墟。
この力をくれた悪魔すら、もういない。
僕は。
生きてるだけですごい。
夏の短編祭り。
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