一緒にシャワー
「あの……トーコさん、これは逆ではないでしょうか……? その、わたしがお世話になる立場なんですから、わたしがお背中を流すべきでは……?」
「どう見ても流すべきはあなたの汚れなんだから、気にしないの」
バスチェアにエトナを座らせ、私はその背後に膝立ちになった。
ボディタオルをたっぷり泡立たせ、彼女の小さな背中を撫でるように洗う。
「んっ……くぅ……」
エトナの唇から、吐息まじりの声が漏れる。
「傷に沁みた?」
「沁みたというかくすぐったいというか……と、とにかく平気です」
「ならいいけど。痛いときは痛いって言ってね」
鏡越しにほにゃっと笑いながら頷くエトナを確認し、手を動かす。
ほっそりとした肩、浮き出た肩甲骨、脇腹、臀部……上から下へ、丁寧に泡で覆っていく。
それなりの期間身体を洗えていなかったのだろう。泡が黒茶色っぽく濁る。
「これは洗い甲斐があるなぁ」
「お恥ずかしいです……」
「ダイヤの原石を磨いてるみたいで楽しいけどね」
「ダイヤ……ですか?」
「だって、エトナって綺麗にすればきっと見違えるほど可愛くなりそうだし」
「そんな、綺麗とか可愛いとか……わたし、そういうのとは無縁ですので……」
身を縮こまらせて、エトナがこぼす。
だがその耳は、先ほどまでよりもほんのり赤らんでいるように見えた。
年相応の女の子らしさを感じて微笑ましくなりつつ、一度泡をシャワーで流す。
瑞々しい肌が、露わになる。
それは同時に傷痕をより鮮明にもしたが、それは仕方あるまい。
「それじゃ、前も洗うからこっち向いて」
「へ?」
私がさらっと言うと、エトナがきょとんとする。
それから慌てて両腕で胸を抱いて隠しつつ、首を振った。
「さ、さすがに前は自分でします! させてください!! さすがに、その、いけません!!」
「つべこべ言わないの。我慢なさい。あっ、こら抵抗しないの。あんまり往生際が悪いと無理やり押し倒して隅の隅まで念入りに見ながら洗っちゃうわよ?」
バスチェアから立ち上がろうとするエトナの肩を押さえつける。
華奢な見た目通り、彼女をバスチェアに押し戻すのは簡単だった。
「で、でも、抵抗しなくてもどのみち洗うんですよね!?」
「もちろん。それになんでもしますって言ったでしょう。だから、大人しく私に洗われなさい」
「あうぅ……」
羞恥たっぷりに呻きつつも、エトナは観念したようだった。
バスチェアの上でもぞもぞと小ぶりなお尻を動かして、180度ぐるん。
そうして、私と向き合う形になる。
彼女の身体は、やっぱり細い。
肉付きが薄く多少ではあるがあばらが浮いている。胸のふくらみも申し訳程度。
「そういえばエトナって何歳?」
「えっと、14です」
「私のちょうど半分かー。若いなぁ」
微笑しながら言いつつも、内心ではエトナの栄養不足を心配する。
肉とか、たくさん食べさせてあげたらいいかな。
そうんなことを考えつつボディタオルを再度泡立たせていると、ふとエトナの視線を感じた。
彼女は恥ずかしそうに、だが目を離せないというふうに私を──もっと詳しく言えば、私の胸を見ているようだった。
「私の胸がどうかした?」
「はうっ、あ、ご、ごめんなさい……なんでもないです……」
エトナはぶんぶんと首を横に振って否定する。
「ほんとに? その割には、私のおっぱいまじまじと見てなかった? ほれ、言ってみ。別に怒ったりしないんだから」
悪戯っぽく笑いかけながら、問いかける。
するとエトナは、顔を真っ赤にしつつもおずおずと囁いた。
「その……トーコさんの胸、おおきくてやわらかそうでいいなって……その、わたし小さいから……。って、あ、や、ごめんなさい。い、今の無しです。へ、変なこと言っちゃいましたごめんなさい!!」
口にした途端、エトナは目を白黒させて手をわたわたさせる。
「ぷっ、ははっ。そっか気になるんだ、あははっ」
私は妙にツボってこらえきれずに笑ってしまう。
それから、不意打ちでエトナを抱き寄せた。
無駄に育って正直邪魔だと思っていたGカップの脂肪に、エトナを埋もれさせる。
「ふひゃっ、トーコさん!? あのこれ、さすがにダメです……!! わたし汚いですし、ふわふわでダメに……なります……!!」
「どうせ洗うんだしいいのよ。うん、よしよし。そっかそっか、エトナはおっぱいが気になるお年頃かぁ」
「だ、だってトーコさん綺麗で格好良くて……おまけに胸まで大きくて、なんだかズルいっていいますか……あぅあぅ……これ、やーらかくて……ふあぁぁ……」
子猫がじゃれつくように甘もがきするエトナ。
その声が、段々とろけたものになっていく。
そういえば会社の部下(女の子)と温泉旅行に行った時も、興味深そうに揉まれたなぁ。やっぱり男女問わずおっぱいって気になるものなのかなぁ。
なんて考えつつ、エトナの濡れ銀髪を撫でていると、次第に彼女も脱力して身を任せてくるようになった。
「ふふ、よしよし」
今度は、細い背中を優しく撫でてやる。
エトナは一瞬ビクッと身体を震わせた後、ふぅ……と吐息をこぼす。
胸がくすぐったい。
かと思えば、エトナが顔をあげた。
「あたたかくて……とても落ち着きます」
潤んだ瞳ととろけた表情で言って、ほにゃっと笑うエトナ。
それがあまりに可愛くて、きゅんとした。
「お気に召したようでなにより」
「……やみつきになりそうです」
「こんなのでよければ、いつでもしてあげるけど」
「……それだけで、こっちの世界に来てよかったなって思えます」
ゆるゆるな笑顔のまま言って、エトナは躊躇いがちに私の腰に手を回してきた。
応じるように、私は少しだけ強く彼女を抱きしめる。
狭い浴室には、シャワーの音と二人の微かな息遣いだけ。
まだ出会って間もない少女と一糸纏わぬままで抱き合っているというのも冷静に考えるとどうなのかと思わなくもなかったけれど、やっとエトナがリラックスしているようで嬉しくなる。
彼女の肌に刻まれた傷の数以上に、きっと彼女の心は傷だらけで。
そのすべてを癒してあげたいなとどいう傲慢な考え方はできないが、私にもできることがあるならしてあげたいなと思った。
たった14歳で、生まれた世界を捨てて──狭い一室でしか生きられない今を選んだエトナ。
そんな少女の手を成り行きとはいえ掴んだ私には、たぶん、相応の責任がある。
まあ、責任なんてたいそれた言葉抜きに、なにかしてあげたいだけなんだけれど。
──しばらく抱き合った後、私たちはどちらからともなく肌を離した。
お互いに今さらな羞恥が湧いてきて照れ笑いを向け合いつつ。
私は改めて、エトナの身体を丁寧に優しく洗ってあげた。