第七話 ゼファーという執事
シェリーとユイの戦闘後二人は種族間の垣根を超え、共に過ごす時間が多くなった。その多くをユイの修行の為に割いているらしく、これまで面倒を見てきた我は、保護者のような視点で少し寂しい気持ちがある。
なんて事を考えていると、どちらが我に先にタッチできるかという競争をいつのまにか始めており、遠くから衝撃波を撒き散らしながら二人でタックルしてくる事もある。我をゴールテープ代わりにするのはやめてほしい。
それを見兼ねたゼファーが、暴れる二人を憤怒の笑みを浮かべながら鷲掴み、我に一礼しつつ、ゼファーの表情に怯えきった二人を引きずりながらその場を後にする。
むしろゼファーこそ保護者なのではなかろうか?と、言うよりは二人の妹に頭を悩ませる長男のような感じだ。
悪戯っ子二人の面倒を見るゼファーであったが、やはり執事としての立場は絶対であるようで、シェリーとユイの両名は毎度、面倒事を起こしては正座をさせられ説教を受けている。その説教が終わって解放された二人は、しばらくは反省するのだが、忘れた頃に次の面倒ごとを起こす。仲の良い子猫かお前達は……。すまんな、ゼファーよ。面倒をかける。
ゼファーは魔族の一人であり、生粋の魔人だ。執事に良くある燕尾服を着こなし、立ち振る舞いも頭に描く執事そのものだ。その姿からは無礼の一切も見受けられず、彼が居る空間からは不自由の一切が失われる。あの娘達はむしろ不自由を感じておるだろうが。
ゼファーを怒らせると怖い。娘達が一度ゼファーに対して反抗の色を示した事があったが、その瞬間彼の憤怒が表情、オーラとなって現れ、それを見た娘達は顔を真っ青にしすぐ様正座をした。真紅に染め上げられたシェリーすらも顔を青ざめる程だ。その姿勢を見るや、ゼファーも
「よろしい」
と笑顔で二人を教育するのだった。むしろその笑顔にこそ恐怖を感じて居るようであったが。
彼こそ魔王に相応しいのではないのか?と思いゼファーに目をやると、
「この世に貴方様を置いて他に魔王を担えるものなどおりませぬ。仮に私が魔王を名乗ったとしても、半端な魔王となってしまいます。私は魔王様の一執事であるからこそ、その力を発揮できるのです」
なんて、顔が緩むような発言をしてきた。流石執事、物凄い太鼓持ちだ。
というより、なんだ今のは?心を読まれたのか?末恐ろしいぞゼファーよ。我もお前に恐怖を抱いてしまいそうだ。
ゼファーはいつも通り全てを許してしまいそうな表情で、その場に立ち尽くすのであった。