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第三話 勇者、学ぶ

 やらかしてしまったかもしれん。

 と、我は少し後悔する。

 というのも、実は勇者に纏わりついていた神の加護が我の体に纏わりついた結果、我の力をほとんど封印してしまったのだ。

 先程までの我の力はなんと、ケシカスくらいにしか残っていない。ありえん、恨むぞ、神よ。


 逆に我の加護を受けたユイからは、とてつもないオーラを感じる。実は人間ではなく魔族なんじゃないか?この娘は。と思う程に。


 しかしヨダレを垂らしながら眠りこけている表情からは、そんな気配を全く感じさせない。


「我も、たまには修行とやらをしてみるか」


 と、溜息をつきながら呟くのだった。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 この世界には、多様な種族が群れを成して生活している。我にとって人間もその一部である。我々魔族であったり、巨人族、亜人族、エルフ、獣人……など、まだまだ多いが、その中で最も繁栄したのが人間族である。

 知恵を持つ種族は集落、街、国を築き安寧を手にした。

 遥か昔は牙も爪も強靭な鱗も巨躯も持たぬ、脆弱な種族であった人間族であった。が、持たざる者故に知恵を巡らせ、試行錯誤を繰り返した結果他の種族に劣らない存在となったのだ。


 人間は脆弱だ。


 脆弱故に強者に匹敵する力を得たのだ。


 与えられなかった存在である人間達にただ一つ与えられたモノ。


 それは『欲望』であった。


 それは凄まじく、他の種族に見られない、一つを上げれば常軌を逸した知識欲により知恵を身につけた。


 知恵は力となり得たのだ。


 そしてその欲は、人間という概念を確固たるものにした欲は、毒と成り得る諸刃の剣であった。


 そう、人間の欲望は強すぎた。


 一度その味を知ってしまえば二度と引き返す事はできない。


 書いて字の如く、欲を望みすぎたのである。


 飽くなき欲求はやがて身を滅ぼし、世界を滅ぼしてしまうのだ。よくよく考えてみれば恐ろしい力である。


 然るに魔王という我の立場は人間の抑止力として大いに貢献している事だろう。

 畏怖を世界に撒き散らす事により、暗黙のルールを敷く。触れてはいけない、侵してはならない、絶対的支配者、超えられぬ存在、そう在り続けなければやがて、世界は滅びる。


  解決の糸口があるとすれば、それはユイのような存在なのかもしれない。我はそんな事を考えてもいる。

 決して可愛いからだけとかではない。決してそんな事はないのである。後付けとかではないのである。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 まだ夜も明けきらない早朝、寝室に寝かしつけたユイの様子を見に行く。が、そこにユイの姿はなかった。

 が、ユイが何処にいるかすぐにわかった。何故なら、厨房から何やら焦げくさい臭いが漂ってきたからである。この城の料理人はベテランである故に、食材を焦げ付かせたりなどしないのだ。つまりユイはそこにいる。我は、厨房に足を運んだ。



「失礼するぞ、ここに人間の女の子が来なかったか?」


 厨房に立ち入ると、燃え盛る厨房の前に慌てたユイと、さらにそれを見て慌てた料理人がいた。なんとも慌ただしい光景が広がっていた。火はすぐさま料理人が水魔法で必死に消化していた。


「こ、これは魔王様!おはようございます、そして申し訳ございません。私が付いておりながらこのような失態…」


 料理人のウリニンがとんでもないタイミングで現れた我に対して謝罪をする。


「いや、構わんよ。何も気にする事はない。が、ユイよ、お前はここで何をしているのだ?」


 ユイは指をもじもじとさせ、その眼にはうっすらと涙を浮かべ、気まずそうに我と目を合わせようとしない。が、我の問いにはしっかりと答える。


「ま、魔王様に朝食をと思いまして……」


 今にも泣き出しそうである。しかしその気持ちは汲んでやらねばならぬ。


「ほう?朝食をユイがか?どれ、味を見てやろう」


 そして、我は消し炭となった何かを口に入れた。

 ユイとウリニンは更に慌てた様子であったが、御構い無しだ。


「ほう、特殊な味付けであるな。初めて口にする味だ。ユイは料理が得意なのだな」


 ん?これでは嫌味に聞こえるな?しかし我は魔王なのである。もちろんその胃袋も魔王なので、何も問題はないのだ。魔王の胃袋なのだ。


「魔王様、ごめんなさい……」


 もうどうにもならないような様子でユイが申し訳なさそうに、深々と頭を下げる。ちょっと泣いちゃっている。


「気にするな、ユイよ。お前はまだ契約を結んだばかりで身体の使い方に慣れていないのだ。もちろん魔力においてもそうだ。そうだな……しばらくはユイよ、毎朝我に朝食を作ってくれ。操作のコツを覚えるのだ。失敗しても構わない、全てこの我が美味しく頂こうではないか」


 ユイは困惑していたが、少し元気を取り戻し、頷いた。

 我は女の子が健気に何かに励んでいる姿を見るのが微笑ましく、また尊いと考えているのだ。


「では、我は用事があるのでこれで失礼する。ウリニン、あとは任せたぞ」


 ウリニンは笑顔で答える。


「はい、お任せください魔王様」


 よし、と立ち去ろうとする我の服の裾をユイがつまむ。


「あ……ありがとうございます」


「うむ、修練に励むのだぞ」


 俯いているのでその表情は見えなかった。だが、きっとユイは微笑んでいた。



 我はその後しばらくお腹を下した。力が弱まっている事をすっかり忘れていたのだ。神ゆるさん。


 我はユイが早いところコツをつかむ事を願うのであった。


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