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第二話 勇者、仲間になる

 


 しかし、どうしたものか。と、我は少し頭をひねる。

 勇者を仲間として引き入れるとはいえ、実際の所勇者は勇者なのだ。部下であり、仲間である者達は納得しないであろう事は目に見えていた。


 魔王が勇者を仲間にするなど聞いた事もないのだ。

 だがしかし懸念しても仕方がない。我は一度決めたことは曲げないタイプなのだ。


 と、その前にやらねばならぬ事がある。

「では勇者よ、お前を我が仲間として迎え入れる為に、契約を交わすのだ」


 勇者は首をかしげる。


「契約、と言いますと先ずは何をすれば良いのでしょうか?」


「お前が勇者として契約を結んだ時の物と似ているな。我の血を一滴、飲むだけで良い。お前なら耐え得るだろう、覚悟はあるか?」


 そう言い、我は己の人差し指を斬りつる。


 種族が違う者同士は、互いの了承の元その肉体の一部を体内に取り込む事により契約を交わすのだ。


 人間にとって、魔王たる我の血は猛毒だ。肌に触れるとその部位が即座に溶解してしまうのだ。だが、鍛え抜かれた勇者であれば造作もないだろう。


「わかりました、是非もありません」


 そう言うと勇者は我の前に跪いた。


「では契約を結ぶぞ」


 人差し指をつたり、契約の証が勇者の口の中へと垂れた。


 瞬間、勇者の体が黄金の光に包まれる。


 足元には紫色の魔法陣が展開し、この部屋全体を染め上げる。飾られた蝋燭の灯りすら飲み込むほどの光だ。

 そして、勇者を包んでいた光が体から解き放たれ、我にまとわりつく。


「魔王様、おかしいです。私の体から力が抜けて……魔王様も」


 脱力感に襲われながら、やはりそうか。と我は考える。


「お前に与えられていた神の加護が我の加護により上書きされているのだ。あとな、我の力奪いすぎだぞ」


実際には勇者が我の力を奪っているのではなく、神の加護とやらが我の力を押さえつけているようだ。全く困ったものだ。


「そういうことなのですね。これで私も魔王様の仲間に……」


 勇者の体から黒色の光が滲み出始め、紫色のプラズマが発生する。魔王の加護が勇者を包み始めたのだ。玉座の間を丸ごと包み込むようなその光も、段々とおさまる。


「これよりお前は我の、我々の仲間だ。歓迎しよう、()()()()()()()()()


 久々にこの台詞を使える時が来た、最近の勇者は会話も遠慮もなくいきなり我に攻撃してきたので、会話を挟む暇も無かったのだ。今言う台詞としては少々違和感があるのが玉に瑕ではあるがな。



 しかし、多少気の毒だとは思う。彼女は今まで勇者として旅をし、期待を受けここまで来たのだ。それが今や魔王の加護を受けて、光り輝いていた勇者のオーラも今は影も形もない。


「ありがとうございます。そして魔王様、私は平気です。私は元来、無限に続く【勇者システム】に疑念を抱いておりました。この一種の呪いとも呼べる輪廻から解放してくださった事、深く感謝申し上げます」


「そうか、ならば良い」


 勇者も人それぞれなのだ、と我は思った。自ら望んで勇者になった者もいれば、生まれる前から運命を定められた勇者もいる。彼女は後者なのだろう。


 儀式が終わり、彼女の手の甲に模様が浮かび上がる。


「魔王様、これは……?」


 勇者が首をかしげ、不思議そう自分のか細い手を見つめる。


「うむ、それは魔王の加護によるものだ。それと、先程抜けた力はどうだ?」


「はい、先程は力が抜けたような感覚がありましたが、新しい力を手に入れたような実感があります、この力があれば……」


 と、不敵な笑みを見せる。勇者とは思えないほどの悪役の笑みだぞ、勇者よ。


「ほう?恨みがある者でもいるのか?」


 我は問うた。が、勇者


「いえ、冗談です。私は今歓喜の最中に今ます。だれを恨もうはずもありません」


 仲間と認められ契約が完了した今、少し緊張の糸が解れたのか冗談まで言えるようになった。しかし他の者が納得するまで時間がかかるだろう、そう言った懸念から我は勇者の気を引き締めさせる。


 単純にだ。


「わっ!!!!」


「ひゃっ!!」


「ヒッ!」


 我が大声を出し、勇者が生娘のような声を上げる。

 まぁ、実際生娘なのだが。


 つられてゼファーも声をあげていたようだが、居た事を忘れていた。軟弱者めが。


「な、なんですか魔王様!」


 慌てた勇者が問うてくる。


「気は引きしまったか?我が認めても他の者はお前を仲間と認識するにはまだ少し時間がかかる。それを理解するのだ」


我は玉座に深く腰掛けながら、勇者に説明する。

勇者はまだ暴れる脈を落ち着かせ、返答する。


「わかりました、魔王様」


「時に勇者よ、お前の名前はなんと言う?我は多少は有名であろうが、ヘルブラッド=ヴァレンタインと申す」


 肝心な事を忘れていた。仲間だというのに名前も知らないとは可笑しな話である。


「はい、私は ユイ と申します」


 ユイは笑顔でそう告げた。


「女の子らしい可愛い名前であるな」


「え……あ……女の子らしい、ですか……?」


 ユイは少し顔を赤らめこちらをチラチラと伺う。


「勇者に向かって可愛らしいは不敬であったな、許せ」


 するとユイは慌てふためき、両手を眼前で勢いよく振りながら、


「い、いえ!滅相もありません。不敬だなんてそんな!」


 と我の発言を訂正する。




 ユイは本当に勇者なのだろうか?そう思う程に反応が新鮮であるし、見た目もこれまで見てきた勇者のイメージとは程遠い。が、その中にも芯の通った趣があり、やはり勇者なのだなと感じさせる。


「さてユイよ、今日のところはもう休め。契約における心身的負担は思った以上に大きいのだ、体の血液を丸ごと交換したようなものなのだからな。部屋には結界を張っておくので安心して眠るがよい」


「ありがとうございます、魔王様。でも私はこれしきのことで」


 そう言いかけて勇者はその場にパタリと倒れこんだ。


「まったく世話の焼ける……おい、ゼファー」


  側近に声をかけ、顎をしゃくる。


「かしこまりました、魔王様。あとはお任せください」


 ゼファーがユイを担ぎ上げようとしたその時、


「いや、待てやはり我が運ぼう」


 と、我はゼファーを制止し、自らユイを運ぶ事にしたのだ。


「魔王様の御手を煩わせずとも……」


 とセバスが異議を唱えたが、少し目を向けると即座にユイを我に預けてよこした。先程の大声に反応してしまった点について反省の色を示しているのであろうか。


 ユイを抱き抱え、寝室まで連れて行く。ちなみにお姫様抱っこというやつだ。


 我、感動。

 ゼファーの目が少し痛いが気にしないでおこう。


「あおうしゃま……」


 我の服を掴み、呂律の回らない口でユイが寝言を発する。

 なんなのだ?可愛いぞ?懐柔するつもりか?

 そしてよだれを我の服につけるのはやめていただきたい。

 しかし、まるで重さを感じない、なんと軽い体であろうか。我に匹敵する強さを感じたが、このような体でよくここまで鍛え上げたものだ。よほど辛い修行をしてきたのだろう。


 しかし喜べ勇者ユイよ、お前の願いは成就した。

 或いは我を懐柔する策やもと思いは下が、杞憂であったようだ。


「勇者ユイに、魔王の加護のあらん事を」


 そんな矛盾した台詞を魔王である自ら呟き、我は寝室までユイを運ぶのだった。

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