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第一話 勇者現る

 我が魔王としてこの世界に君臨してからどれくらいの時が経っただろうか。数多の勇者を蹴散らし己の存在を誇示し続け、今尚この立場は揺るがない。


 ーー人間共は愚かな生き物である。


 というのもあれだ、端的に説明するとまず、


 我が物顔で我が城に大勢で足を踏み入れる行為。ノックもインターホンも無しだ。

 ……まぁ、端からインターホンなどは無いのだが、せめてアポくらい取れ、アポくらい。


 次に、

「世界の半分をやろう」

 と、やさしーく妥協案を提示する。しかし勇者一行ときたら

「世界の半分などいらぬ。私が欲しいのは魔王、貴様の命だ」

 などとぬかすのだ。

 命は困る。人の家に断りもなく侵入し、剰え家主の命を奪う、ありえん。野蛮すぎる、ありえん。

 というか、世界の半分って大分広いのだが?結構な広さなのだが?目に見えるもの全てを手に入れないと気が済まない、その人間の愚かしさにほとほと愛想が尽きたものだ。


 さて、一つ間違えないで頂きたいのが、我は世界を支配しているのでは無い、寧ろ管理しているのだ。

 というのも、人間達に世界を任せると世界が滅んでしまうから……なのである。

 この世界は広い。だがしかし、人間の欲は世界の枠を大いに超える。

 実は我は百年ほど人間に世界の管理を任せたことがある。

「勇者様が魔王を討伐した」「魔王が居なくなって平和になった」

 人々はしばらく歓喜に打ち震えた。

 しかしその実、我は討伐されたのではなく、されたフリをしてみたのだ。負け惜しみではないぞ、本当にフリだったのだ。

「ふはは…勇者よ、我は何度でも蘇る。人間どもの心に悪が宿る限り我は何度でも貴様らの前に立ち塞がるだろう」

 とかなんとかそれっぽい台詞と血を吐いて、わざわざ眩い閃光を放ち、勇者一行が目を眩ませている間に別荘にテレポートしたのだ。書いて字のごとく我は姿を眩ませたのだ。勇者達が城から逃げ切れるだけの時間を残し、魔王城を崩す細工を丁寧に施した後に。


 さて、凡そ見当はついていると思うが、我が姿を眩ませたその後百年、人間どもは世界を台無しにし始めた。


 自然を破壊し、空気、水、土を汚染し……他の種族を脅かす。

 そして魔王という存在が無くなり世界は平和になると思いきや、次は人間同士で戦争を始めたりなど……もう何がしたいんですか、何が目的なんですかやめてください。

 というわけで、百年後我は不動の絶対悪として再びこの世界に君臨することになったのだ。


 さてそれからというものの、人間どもの王は挙って勇者を募り、その姿に憧れた有望な子供達を勇者に任命し魔族の跋扈する過酷な世界へと解き放ち始める。それは何の為か、もちろん世界では無い。『自らの欲望の為』に、だ。

 おぉ……なんと浅はかなのだろうか。

 名声、栄光、名誉。なんて人々の物差しで決めた目に見えない杯を見せつけ、それに魅了された子供達は『勇者』なんてものに本気で憧れる。


 そして、世界を救うんだ。なんて気持ちを胸に冒険に旅立つのである。その世界とやらが、王族の欲望でしか無いということも知らずに。


 しかして、そんな真実を告げたところで酷な話なのである。だから我は止めない、勇者であろうとした者達の生き甲斐を奪ってやるなんて事はしないのである。


 なんと心優しい我であろうか、心の優しい魔王とはなんぞやと思うが。


 だから我は気にしていない。我の家を物色しようと、命を奪いに来ようと、なんら気にはしないのだ。


それがせめてもの情けである。大人の対応である。


 そして、あっけなく敗北した勇者を、親切心で近隣の町村まで転送するのだ。奴等は安全な街の中で勝手に復活したと思っている。そんな優しい世界は存在しないのである。


 そして勇者は人々にこう告げる。


「魔王やべーよ、やべーわ、あれはやばい。倒さないとやばい、やばい世界がやばい」


 よほど畏怖を抱いたのか、語彙力の欠如している勇者が一番やばい。


 世代が移るにつれ勇者の様相も変化し、日々力を増す。その中にも特に奇怪な者がいた。その者は我に匹敵する程の力を持ち、ついには眼前に現れる。


 そして、こう告げるのだ。


「世界の半分などいりません、是非私を魔王様の仲間にしてください」


 テンプレート的な発言を予感していた我は少しばかり表情が困惑に染まる。仲間になりたいとな?

 この一見か弱そうな女勇者が、実に酔狂な事を言い出したのだ。


「不敬な、人間の分際で魔王様の仲間になりたいなどと……」


 傍に控えていた側近のゼファーが青筋を立てながら勇者の発言を否定する。そこに我が


「まあ待て、興味深い」


「魔王様!?」


 驚愕の色を隠しきれないゼファーが振り向く。

 普段は飄々とした様子のゼファーであるが、この反応は傑作だ。


「ふむ、おもしろいぞ、勇者。貴様を我が仲間として迎え入れてもかまわん」


「本当ですか!?」


 勇者は満面の笑みを浮かべこちらに確認する。


「ただ一つ問いたい。何故、我の配下になりたいのだ」


 勇者は口籠る。なんとも言えない表情を浮かべ、顔を赤らめ、そして口を開く。


「私は魔王様の配下ではなく、仲間となりたいのです。そして理由と言いましたが、簡単です。王様達の言う世界より、魔王様に興味を持ってしまったのです」



 なんだ?プロポーズか?



 我を懐柔し世界の全てを手に入れる一つの策略なのか?そうかもしれんな?な?


 しかし、其れを考察するにはこの人間の事を未だ何も知らぬ。「仲間」という形で様子を見た後で考察するのがいいだろう。


 魔王になり現在に至るまでこれほどユニークな発想を持った人間が居たただろうか?

 我の中に新しい風が吹き抜ける、そんな感覚を愉しんだ。


「わかった。勇者よ、貴様を我が仲間として迎え入れよう」


 そしてまさか二つ返事で快諾されると思っていなかった勇者が、驚きと戸惑いと満面の笑みを浮かべる。


「ありがとうございます。魔王様のお役に立てるよう、日々精進して参ります」


 我がこの勇者を仲間にしたのは、実に愉快であり、我に匹敵するであろう力を買った点もあり、そしてなにより


 すっごい可愛いからであった。


 そして我は勇者を引き入れ、共に生活していくこととなった。

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