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6 廃城にわずかに存在する精霊

 世界の南端にあるルーク村出身の十六歳。

 両親と兄、そしてふたりの妹と暮らしている。


 以上が、サリアの自己紹介の内容だ。


 ルークといえば、ここから俺の足でも半月はかかるほど遠い。

 その往復は買い出しというよりは旅だ。


 それだけ歩けるのであれば、さほど足手まといにはならないかもしれない。


 夜更けのエスーハの街を、俺とサリアは並んで歩いていた。

 サリアの知る精霊たちのもとを訪ねるためだ。


 中央広場を避け、城壁に近い路地を北に向かう。

 北にはかつての領主の城があるが、現在は使われていないらしい。


 ゆるやかに続く坂の上に、廃墟と化した城が見え始めたその時、ふいに背後に人の気配を感じた。


『つけられてるぞ』


 俺が気付くのとほぼ同時に、ツァルが警告を発する。

 サリアは肩をぴくりと震わせたけれど、振り向いたり足を止めたりはしないのは偉かった。


 おかげで、俺たちが尾行者に気付いたことはばれていないはずだ。

 尾行者との間にはまだ距離がある。


「そのまま歩け。どこをどう行けば連中をまけるか、わかるか?」


 小声でサリアに問いかける。

 俺たちはこの街に不慣れだ。

 ここはサリアに頼るしかない。


「だいたいは。でも、待ち伏せされてるかも。お城付近に精霊が隠れていることは、薄々勘付かれてるみたいだから」


『わかる範囲でいい。走れ』


 すぐ傍の小道に飛び込んだ俺たちは、サリアを先頭に全力で走りだした。


 エスーハの街を走り回り、遭遇してしまった相手を蹴り倒し、城壁の崩れた箇所から一度街の外に脱出して、ようやく城の裏手に到着する。


 サリアは人ひとりがようやく通り抜けられる隙間を見つけ、するりと城壁の中に入ってゆく。


 俺はその隙間の前に立って、隙間の幅と自分の体の厚みを比べてみた。

 もともと厚みがあるほうではないし、ここのところまともに飯を食っていなかったせいで、更に薄くなっているのが幸いしたようだ。


 壁の向こう側から、精霊たちの気配を感じる。


 横向きになって隙間に体を滑り込ませると、ぎりぎりで通過することができた。

 サリアが俺の姿を確認してから歩き始める。


 白金色の髪が月光を浴びて美しく輝いている。

 まるで髪そのものが光を発しているようだ。


『近いな』


 ツァルの声が僅かに弾んでいる。

 仲間に会えるのはやはり、嬉しいものらしい。


「よかったな」


 サリアは城壁に沿ってゆっくりと歩を進める。

 ところどころ、壁が二重になっているようだ。


 サリアは城壁の向こう側の様子を窺うようにしながら歩いていたけれど、やがてぴたりと足を止め、こちらを振り返った。


 目の前には石を積み上げた堅牢な城壁がある。

 けれどよく目を凝らせば、それが幻影であることがわかる。


「こんばんは、テュッポ。お客さまを連れてきたわよ」


 サリアが幻の城壁に向かって呼びかける。

 さわさわと精霊たちの声が聞こえる。


 やがて城壁の輪郭が揺らぎ、闇に溶け込むように消えた。

 そして現れたのは、緑の生い茂る広場だった。


 綿毛のように漂うひとつの仄かな光が浮かび上がる。

 それ以外に三つほど気配を感じるけれど、姿を隠してしまったようで、俺にはその姿が見えなかった。


『こんばんは、サリア。ようこそ、お客さま。テュッポと申します。私たちに何か御用でしょうか』


 鈴のような、優しい声音だった。

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