15 契約と代償
『ヴァルヴェリアス、リフシャティーヌ。あとのことは全ておまえたちに任せたはずじゃが?』
シュティフォーラが重々しい声で問う。
『申し訳ございません。我々の力不足です』
『至らぬことばかりで、申し開きもございません』
精霊の塔の端に止まったヴァルヴェリアスと、伏せているリフシャティーヌが揃って頭を下げる。
「わたし、みんなががんばっていたのを知っています。ヴァヴァロナ王家も、リファルディア王家も、精一杯やったと思います。結果としてこんなことになってしまったけれど、誰も世界を滅ぼしたいだなんて思っていません。今回この危機を乗り越えられたら、きっとみんなまた精霊のことを考えてくれるようになると思うんです。いえ、わたしたちがそういう世界にします。だからどうかお願いします」
サリアが、揃って謝るだけの精霊をかばうように言う。
『九百年』
「え?」
『九百年前も、人間は愚かにも世界を滅ぼしかけたのじゃぞ。今回助けたとしても、また同じ事の繰り返しだとも』
「そんなの、わからないじゃないですか!」
「サリア」
俺はシュテフォーラに詰め寄らんばかりのサリアの手を引いて、そっと諫める。
『わかるわ。それが人というものじゃからの。我はそんな人間に絶望してこの世界を去ったのじゃ。我の創り出した世界は失敗だったのじゃ』
「失敗なんかじゃないです! 昔は、すごく素敵な世界だったって聞きました。人も精霊も仲良く暮らしていたって。今この世界に残っている精霊たちは、みんなそのころのことが忘れられないんです。あのころは楽しかった。もしかしたら、またあんな風に暮らせるんじゃないのか。そんな期待があるから……未練があるからこの世界から去れないんです」
「俺……私もそう思います。今回、世界中の精霊たちが力をあわせて世界の浄化を手伝ってくれました。私たち人間に、精霊に、この世界の住人たちに、もう一度だけやり直す機会を与えてはもらえませんか。あとは私が責任をもって、この命に代えても、この世界を立て直します。だからどうか、お願いします!」
王家の血を引く者として、俺は頭を下げた。
俺にできることは頼むことだけだ。
賭けられるのは俺の命。
これだけしかない。
「わたしもできることならなんでもします。だからお願いします!」
隣ではサリアが俺と同じ様に頭を下げている。
「我々からも、お願いいたします」
「今一度、機会をお与え下さい」
これまで黙っていたツァルとアスィも、声を添えてくれる。
『シュテフォーラ様、どうかお願い申し上げます』
『みなで力を合わせて、昔のような世界を目指しますわ。ですからどうか……』
「シュテフォ……」
『ええい、みな揃って騒がしいことこの上ない! 人を呼びつけたかと思えば、次々と好き勝手言いおってからに。いつもいつも困った時ばかり人を頼って、それ以外の時はてんで我のことなど思い出しもせぬ。そんな主らの願いを、何故我が叶えねばならぬのじゃ』
「どうしても駄目だとおっしゃいますか?」
俺の問いに、シュテフォーラは目を眇めた。
『そうじゃな……もしどうしても助けて欲しいとと言うのであれば、契約を結ぶか?』
「それで世界が救われるのであれば、喜んで」
「代償をもらうことになるが?」
「構いません」
もとより、覚悟の上だ。
俺は息を吸い込み、答えた。




