14 世界の創造主
ヴァルヴェリアスが上空へと昇ってゆく。
それを見送ったリフシャティーヌが口を大きく開けたかと思うと、咆哮を始めた。
空ではヴァルヴェリアスが翼を大きく羽ばたかせ、風を巻き起こしている。
ふたりの精霊から発される膨大な力に圧倒される。
俺とサリアは、並んでそれを見上げていた。
リフシャティーヌの隣にはアスィとツァルが立ち、目を閉じて何かを念じているように見える。
空の雲は全て吹き飛ばされ、守護者の風と声にはそれぞれ色がついている。
青緑の風、純白の声。
それらがペリュー山脈を越えて世界中を駆け巡っているのがわかった。
そしてそれとは別に、こちらに向けて発されている光がある。
四方から精霊の塔目指して集まってくる光、それは各地の精霊たちの力。
その光の中に、アグの村で会ったガティの気を微かに感じた。
俺たちを泊めてくれたミールは元気にしているだろうか。
また別の光からは、アラカステルのはずれにある鉄橋の精霊ファローの気も感じられる。
みんなの力が、ここに集結している。
そして足もとから集まってくる光。
これはペリュシェスに集った精霊たちの力。
それらの力をふたりの守護者が吸収し、自らの力と融合させて世界の穢れを浄化する。
その光景に、胸が熱くなる。
これが守護者の力。
これが精霊の力。
俺たち人間にできることは、なんて少ないんだろう。
自分は今、ここにこうして立っていることしかできないのに。
俺はその光景にただただ見惚れていた。
やがて精霊の塔に向けて集まってくる光が尽き、ヴァルヴェリアスは大きな羽ばたきをやめ、リフシャティーヌは口を閉じた。
『これで、随分とましになったでしょうね』
『ああ、この状態を維持できれば、死病は収束し、精霊は過ごしやすい環境を得られるだろう』
『けれど地震はおさまりませんね』
『だからこそ、シュテフォーラを呼ぶんだろうが』
精霊たちは口々に言葉を交わし、そして俺たちを見た。
『さあ、シュテフォーラを呼んで頂戴。ここからはあなたたちの出番よ。あなたたちは守護者の同盟者であり、同時に人間の代表でもあるのだから』
俺とサリアは顔を見合わせ、頷き合った。
どちらからともなく手をつなぎ、塔の中央へと進み出る。
俺の斜め後ろにツァルが、サリアの後方にはアスィが立ち、それより少し離れた場所にリフシャティーヌが坐っている。
空を見上げた。
もうすぐ日が暮れる。
周囲が橙に染まり始めている。
「世界の創造主にして偉大なる精霊シュテフォーラ様。どうか今一度この世界のために力をお貸し下さい」
「わたしたちはこの世界が大好きです。大好きな人がいる、大切な人がいるこの世界を失いたくはありません。だからどうかお願いします」
「シュテフォーラ!!」
空に向かって叫ぶ。
俺とサリアの声が重なる。
それに続いて、リフシャティーヌの咆哮とヴァルヴェリアスの風が絡まりあい、俺たちの声を押し上げるように空へと昇ってゆく。
そして――。
空が裂けた。
茜色の空が、ぱっくりと口を開けた。
そこからのぞいたのは、光溢れる世界。
まるで今沈みゆこうとしている太陽が今一度昇ってきたかのような、そんな印象すら受ける。
その光の中から、金色の塊が飛び出してきた。
近付くにつれ、その姿が明らかになる。
その姿は一本の角をもつ馬のように見えた。
ただしその鬣は長く、まるで金粉を振り撒いているように見える。
「あれが、シュテフォーラ?」
「みたいだな」
ごくりと唾を呑みこむ。
その存在感は守護者の比ではなかった。
シュテフォーラが近づくにつれ、その気に押しつぶされそうになる。
立っていられないほどの圧力を感じる。
ただ立っているだけなのに、汗がこめかみを伝う。
サリアがただの女の子だったら、とっくに倒れていてもおかしくはない。
これが世界をひとつ創造するほどの力を持つ精霊。
シュテフォーラは精霊の塔のすぐ傍まで空を駆け下り、そして上空でぴたりと立ち止まった。
空中にまるで足場があるかのように、そこに四本の肢で立っている。
『今更、我に何用か』
女性に近い声だった。
大きな声というわけではないのに、びりびりと空気が震える。
「呼びかけに応えて下さり、ありがとうございます。俺……私はクルストラ・ディ・ヴァヴァロナ。シュテフォーラ様は、このままでは世界が滅びてしまうことをご存知でしょうか。私たちは世界を存続させるためにここまで来ました。けれどどうしても我々の力だけでは世界の崩壊を食い止められないのです。どうか今一度、シュテフォーラ様のお力で世界をお救い下さい」
迫力に呑まれていた俺は、震える声で精一杯呼びかけた。




