13 もうひとりの世界の守護者リフシャティーヌ
「あ、いや……。俺はヴァルヴェリアスのためらななんでもするって約束してたし、それは別にいいんだ。ただ驚いただけで」
まさかヴァルヴェリアスがずっと一緒にいたとは、夢にも思わなかったから。
そもそも、ツァルのことだってどこかの性質の悪い精霊だと思っていたくらいなのに。
「アスィは気付いたんだよね?」
『ツァルの本来の姿を知っていましたから、何をしてあんな芥みたいな姿になったのかはだいたい予測がつきます』
サリアに訊かれて、アスィが大したことじゃないという風に答える。
『芥とはなんだ』
すぐ近くで声が聞こえて隣を見ると、人間の姿をしたツァルがそこに出現していた。
鳥の姿はもうやめたらしい。
赤い髪をおろしたままの姿で、アスィに詰め寄っている。
見慣れたその姿にほっとする。
『元気そうでなによりだ』
ヴァルヴェリアスの声に、俺は空を飛ぶ竜を見上げた。
「ヴァルヴェリアスも、元気そうでよかった。もう大丈夫なのか?」
竜がばさりと大きく翼を羽ばたいた。
『そうだな。シュテフォーラを呼び出すことくらいならできるだろう。まずはリフシャティーヌを起こさなければならないが』
『その必要はなさそうですよ。ヴァルヴェリアス様の気を感じて、目を覚ましたようです』
アスィが空を見上げる。
つられて俺も天を仰ぐ。
太陽はペリュー山脈の山際近くまで傾き、空には薄っすらと雲がかかっている。
その雲間から、一本の光が塔の上へと射しこんでいる。
光の道を駆け下りてくるのは、真っ白な獅子に似た獣の精霊だった。
その大きさはヴァルヴェリアスにひけをとらない。
赤い瞳に鋭い牙。
長い毛の間からのぞく耳が丸みを帯びているのが優しい印象を受ける。
そして白獣は体重を感じさせない動きで精霊の塔へと降り立った。
『随分と寝坊をしてくれたわね、ヴァルヴェリアス』
『君は相変わらず寝起きがいいようだ、リフシャティーヌ』
『おかえりなさいませ』
アスィが床に片膝をつく。
『お疲れさま、アスィ。そして大きくなったわねサリアーシャ』
純白の獣が尾を振る。
「リフシャティーヌ様!?」
『そうよサリアーシャ。昔あなたに加護を与えたのを覚えていない?』
『リフシャティーヌ様、その時サリア様はまだ赤ん坊でした。覚えてなどいません』
『あら、そうだったかしら? でも、役に立ったでしょう? どちらか一方を城の外に出すなんてわたし、本当に、本当に嫌だったのよ。でも決まりだって言うから、元気そうなあなたのほうを選んでしまったの。だって、体の弱い子を外に放り出すなんて、そんなことできるわけないじゃない?』
「あ、はい。わかります」
『ですがリフシャティーヌ様、少々効果がありすぎたようですよ』
『まあ! じゃあ、わたしが思った以上に元気な子だったのね。もしかして加護なんて必要なかったのか
しら』
「そんなことありません。ここに来るまでに、すごく助けられました」
『そう、よかったわ』
そう言ってリフシャティーヌは白い喉を鳴らした。
『そこにいるのがヴァヴァロナ王家唯一の生き残り、クルストラだ。サリアーシャとクルスが、力を合わせてここまで来た。アスィとツァルが付き添ってな』
『素敵なことだわ。クルス、サリアーシャのこと、どうもありがとう。これからもお願いね』
リフシャティーヌの赤い瞳が優しく細められる。
まるでサリアのお母さんみたいだ。
「はい」
胸を張ってそう応えると、リフシャティーヌの目が更に細くなった。
『さあ、じゃあ始めましょうか。あなたたちに世界を救う覚悟はあって?』
「もちろんです」
「はい。その覚悟でここまで来ました」
サリアと俺は即答した。
『そう、いい返事ね。じゃあ、まずは可能な限り、世界の浄化をするわ。でもね、期待はしないで頂戴。わたしたちはそりゃあ休む前と比べたら多少力が回復したかもしれないけれど、それでもここまで崩壊に近づいた世界を救うほどの力はないのよ。だから、それが終わったらシュテフォーラを召喚するわ。できることは全てやるけれど、最後は世界の創造主の手に委ねるしかないの。わかるかしら?』
「はい」
俺のサリアの声が重なる。
俺たちの返事を聞いて、リフシャティーヌはひとつ、頷いた。
『ツァルが精霊の寄る辺に細工をしてきた。私たちがここで力を解放すれば協力してくれる精霊たちの力がここに集まるようになっている』
『ますます素敵ね。それに、ここにもたくさんの精霊たちが集まってくれているようね。嬉しいわ』
ヴァルヴェリアスの説明を聞き、リフシャティーヌが極上の笑みを浮かべた。




