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10 すぐそこにある光あふれる場所

 精霊の塔の階段は、螺旋状に延々と続いている。


「なんだか、守護者の塔を思い出すな」


『でもあの階段は、細くて長くて急だっただろ? こっちは幅が広いし、長さも守護者の塔と比べれば短いはずだし、傾斜も緩やかだ』


「あの階段は俺たち人間が守護者に会うための心構えをするのに必要な時間分の長さらしい。静かに一歩ずつ踏みしめながら上れって言われたけれど、俺はいつも駆け上がってたな、そういえば」


 昔のことを思い出し、懐かしさに目を細める。


『階段が大変だから、みんな本当に用のあるときにしか上って来ないんだ。なのにおまえだけは小さいころからちょろちょろちょろちょろと姿を現しやがって、鬱陶しいったらなかったな』


「なんだと。あんなてっぺんにずっといると暇だろうから、俺は好意で遊びに行ってやってたんだ」

『余計なお世話だ』


「やるのか?」

『ああやってやるさ』


「目から出てきたら踏み潰してやる」

『一日中おまえの視界に入る場所で、落ち着きなくうろうろし続けてやる』


 うわあ、それってめちゃくちゃ煩わしいじゃないか。俺はがくりと肩を落とした。

 すると、頭上からくすくすという笑い声が降ってきた。


 サリアだ。

 相変わらず息切れひとつしていない。


 昔は守護者の塔の上り下りで鍛えた俺だけれど、ここのところの怠慢のせいで長い階段が既に結構足にきているなんて、言えない。


「すごく楽しそう」

「楽しくはない」

『こいつとは昔から言い合いばかりしてた覚えしかないからな』


 俺とツァルがそう口にすると、サリアはまた可笑しそうに笑った。


 ま、サリアが笑ってくれるんならいいか。

 サリアの沈んでいる顔なんて見たくないからな。


『もうすぐです』


 アスィの声に、はっと顔を上げた。


 ところどころに換気と採光のための小さな穴が空いているだけの塔なので、出口から射し込む光がすごく眩しく感じる。


 歩く速度が自然と早くなる。

 いつしか、前を歩いていたはずのサリアと並んでいた。


 ふいに、塔が揺れた。


『地震だ!』


 ツァルが鋭く叫ぶ。

 立っておられず、思わず階段に膝をつく。


 大きい。

 塔が倒れるんじゃないかと心配になるほどだった。


 ぱらぱらと壁の弱くなった部分が落ちてくる。

 咄嗟にサリアの上に覆いかぶさる。


「クルス」

「大丈夫だ。すぐにおさまる」


「そうじゃない。何か落ちてきたら、クルスが危ないよ。どいて」

「大丈夫だ」


 自分にも言い聞かせるように、大丈夫を繰り返す。


『もうすぐおさまりそうですよ』


 こんなときでも、アスィは落ち着いている。

 その冷静な声を聞くと、俺も幾らか気持ちが落ち着いた。 


 やがて、アスィの言ったとおり、揺れが徐々に小さくなり、やがておさまる。


 よかった。

 俺は長く息を吐き出して、サリアを解放した。


「クルス、大丈夫?」

「ああ、平気だ。言っただろ?」


 塔が丈夫でよかったとしみじみ思う。


『急ぐぞ』

「ああ」


 ツァルに急かされるようにして立ち上がる。


 あと少し。

 すぐそこに光が見えている。


 そこで、何かが起こる。

 きっと、世界を救うための何かが。


 鼓動が速くなる。


 光の先、そこは精霊の塔の最上階。

 俺とサリアは、並んで光の中へと踏み出した。

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