5 少女の突然の決意
「あなたは、そのころのことを覚えている精霊のひとりなんだね」
サリアが、感慨深そうに俺の目を見ている。
『ああ、そうだ』
ツァルが眼球の中をふよふよと漂いながら応えた。
俺は、昔のツァルがどこでどうしていたのかなんて聞いたことがない。
自分のことすらわからないのに、他人のことに興味なんて持てなかった。
でも今の話を聞いて、ツァルには幸せな過去があるんだろうと思った。
それが羨ましかった。
「決めた!」
サリアが突然立ち上がった。
「何を?」
「わたしも一緒に行く」
拳を握り締めて、深く頷く。
「へ?」
『はあ?』
俺とツァルの声が重なる。
「この世界を救うための旅なんでしょ? だったらわたしも手伝うよ。精霊たちのことももちろん心配だけど、世界がなくなったらわたしも困るもの」
「ちょっと待て。そんな簡単に……」
「平気平気、家には手紙のひとつでも出しておけば大丈夫」
サリアの瞳がきらりと光っている。
やる気満々だ。
俺は困ってため息をひとつ吐いた。
女の子、しかもこんな小さい子と一緒に旅をするなんて、冗談じゃない。
面倒ばかり増えて、予定通りに事が進まず、うんざりするのが目に見えている。
今、世界は危機に直面している。
異常気象が続き、死病が流行している。
自分の家で大人しくしていたっていつ命を落とすかわからない世の中だ。
何を好き好んでわざわざこんな小さい子を連れて歩かなければならないのか。
俺だって、ツァルとの契約がなければ、街が滅びたりしなければ、旅なんてしていないはずだ。
「ツァル……」
何とか言ってやってくれ。
そういう気持でツァルに助けを求める。
『ま、いいんじゃないか?』
予想外の反応に、俺は目をむいた。
「いいんじゃないか? っていいわけないだろ! 相手は子どもだぞ。親兄弟が心配するだろ。だいたい、何かあったって、俺には責任とれないからな」
「子どもだなんて失礼ね。わたし、もう十六よ」
サリアのその台詞に、俺は一瞬固まった。
今、何て言った?
十六? この小さい子が?
俺とふたつしか違わないって?
「……いや、年齢詐称しても、連れて行けないぞ」
どう年上に見積もっても、せいぜい十三歳くらいだろう。
「益々失礼ね。本当に十六だってば」
そう言ってそらした胸は、確かに子どもとは思えない程度にはふくらみを帯びていた。
俺は慌てて目を逸らす。
『あっはっは。十六なら、充分自分で判断できる歳だろ。勝手についてくる分にゃ俺たちには関係ない。何かあっても自己責任だ。それさえわかってりゃ、問題ないさ』
ツァルは随分とサリアのことが気に入ってしまったらしい。
俺は空を仰いだ。
赤い糸くずが視界でふわふわと揺れている。
「決定なのか?」
『決定で命令だ』
ツァルの一言。
俺はツァルに逆らえない。
逆らえば記憶を喰われる。
俺たちはそういう関係だし、俺はそれを忘れたことはない。
「……わかったよ」
目を閉じて、息を吐き出す。
俺は抵抗を諦めて、大人しく決定に従うことにした。




