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7 降り注ぐ矢の雨

 次々と降り注ぐ矢の雨。


 そのほとんどは払い落とされるが、何本かはその隙間を縫ってこちらに届く。

 それをサリアが剣で叩き落す。


 矢の飛んでくる方角に視線を向けると、柱の上に弓を構えた射手がいるのがわかった。

 数は二。


 濃紺の制服を着込んでいる。


「あれは……」

『この鏃、ヴァヴァロナで見かけたことがあるな』


 叩き落された矢を見ると、真鍮の鏃が使われていた。

 確かに、これなら俺も見たことがある。


 リファルディアでは黒く光る鉄を鏃に使い、南のほうでは銅を用いる、というように、武器を見ればどこの者かは凡そわかる。


 濃紺色の軍服と、この鏃。

 間違いなくドッツェの手の者だろう。


「でも、どうしてだ? さっきの地割れでアラカステルからの道は寸断されたはずだ」

『それよりも早くペリュシェスに向かっていたのかもしれん。俺たちがマーサンによって足止めされている間にな』


 思わず舌打ちをする。

 先回りされていたということか。


 精霊の塔まで、あと少しなのに。


 俺は足もとに転がっている石の欠片を数個拾い上げた。

 幸い、投げる物には事欠かない。


『おまえ、投擲も苦手だろ?』


 俺がやろうとしていることに気付いたツァルが問う。


 確かに。恥ずかしながら、剣だけでなく弓も短剣も槍も上達しなかった。

 ナイフの投擲も、ちっとも的に当たらなかった。


 自分の体を動かすのは得意なのに、何か道具を使うとなると全くコツがつかめない。

 不器用なんだと思う。


「当たらなくて元々。当たったら儲け物」


 手の中で石を何度も握り直しながら、射手を見る。頭か手を狙えばいいんだろうけれど、狙ったとおりに飛ぶとも思えない。


 手始めに一応狙いをつけて石を投げる。

 一番手前の射手の随分と手前に落下した。


 射手は少しも動じていない。


『ここからじゃ無理だな。おまえ、飛んでくる矢は見えてるんだろ?』

「当たり前だろ」


 昔から目はいいんだ。


『じゃあ、避けられるな?』

「致命傷は避けられる」


 返事をしながら、ツァルの言いたいことがわかった。

 射手の位置と、そこまでの道筋をざっと考える。 


『上等だ。もうすぐあいつらの仲間がやってくる。早目に片付けておきたい』

「わかった」


 俺は近衛兵の守りの中から単身飛び出した。

 崩れた瓦礫を足場に、壁の上に飛び乗る。


 ここから射手のいる柱の近くまでは、壁の上を走って行ける。


「クルス!?」

「クルスさまっ!」


 サリアと、トルダたち親衛隊の声が重なる。


「俺は大丈夫だ! それよりもうすぐ連中の仲間がやって来るからそっちを頼む」

「気をつけてっ!」


 目は射手から離さない。

 ふたりの射手のうち、ひとりが矢をこちらに向けた。


 俺に近いほうだ。

 俺は壁の上を一気に走り抜ける。


 脆くなっていて、踏むと同時に崩れ落ちるところがあるので、いかに早く駆け抜けるかが重要になってくる。

 立ち止まったら自分の重さで壁が崩れて落下してしまう可能性だってある。


 矢が放たれた。


 俺の胸めがけて飛んできた矢を、俺は走りながら体をひねって避けた。

 二射がくる前に、壁の近くにある低めの柱の上に飛び移る。


 更にそれを踏み台にして、柱から柱へと移動する。


 ペリュシェスの柱はほとんどが円柱で、その太さは様々だけれど、中には大人三人が手をつなぐのと同じくらいの太さのものもある。

 踏み台には充分すぎるほどだ。


 それに射手が狙いを定めるよりも早く動けば、そうそう矢には当たらない。


 射手のすぐ近くの柱に着地する。

 目が合った。


 覆面をしているけれど、女だとわかる細い体。

 けれど俺は躊躇しなかった。


 地上では、武器を持った連中が押し寄せ、親衛隊士たちと戦闘を開始している。

 空から降ってくる矢を気にしていては、満足に戦えない。


 柱を思い切り蹴り、跳躍する。

 射手に矢を充分に引く間を与えず、柱の上から蹴り落とした。


 自分はその場に留まる。

 落下した女はなんとか無事着地したようだ。


 あとひとり。


 仲間が蹴り落とされたことに気付いた射手が、こちらに矢を向ける。


 矢が頬をかすめた。

 俺はすぐにその柱の上から移動する。


 柱を飛び移りながら次の瞬間、高く跳躍しながら石礫を投げつけた。


 手を狙ったけれど、逸れて顔へ向かって飛ぶ。

 射手がそれをかわす。


 更に二、三個の石を続けて投げる。

 そのうちのひとつが、射手の右肩に当たった。


 低く呻く声が聞こえる。

 その隙を逃さず、俺は柱を蹴ってその射手に飛びかかった。


 両肩を押さえ、取り押さえる。

 射手の頭が柱の上からはみ出した。


 腰に下げていた矢筒が傾き、中に入っていた矢が全て落ちる。


 と、射手が俺の外套の襟元を掴み、仰向けのまま俺の腹を蹴り上げた。


 しまった!


 俺の体が回転して、宙に浮く。

 こうなったら相手も道連れにしてやる。


 俺の外套を掴んでいる腕を、逆に俺も強く握った。

 ふたり揃って柱から落下する。


「クルス――ッ!」


 サリアの悲鳴が響き渡った。

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