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16 空から降る光の欠片

 空から降ってくる光の欠片は、割れたガラスの破片だ。


「な、何が起こったんだ!?」

「動かないでっ!」


 鋭く響く女の子の声。

 聞き覚えのあるこの声は――。


「サリア!?」

「クルス! 助けに来たよ」


 天井近くから落下しながらサリアが叫ぶ。

 途中、何度か部屋の中心に伸びる木の枝を足場にしつつ、あっという間に地面まで到達した。


「なんで……」

『わたしの力不足です。申し訳ありません』


 サリアが握る剣からアスィの声が聞こえる。

 と同時に、背を向けている部屋の入り口のほうでも物音がした。

 見ると開け放たれたままの扉の外に、メ・ルトロの構成員が倒れているのが見える。


「そこまでだ! この建物はヴァヴァロナ王家親衛隊である我々が完全に包囲している。無駄な抵抗はせず、速やかに人質を返還していただこう」


 よく響く低い声とともに、ヴァヴァロナ人が好む大剣を手にした人影が室内に侵入してくる。

 その顔には、見覚えがあった。


「列車で一緒だったおじいさん……?」


 ポルスから一緒に蒸気機関車に乗ってきた、あの老人だった。

 そして昔の記憶の戻った今、確かに王宮内で父上の傍に控えている姿を何度か見たことがあることを思い出す。


 クーデターの起こる数年前に退役したはずだ。


「遅くなりまして、申し訳ございません!」


 トルダさんが俺に向かって頭を下げる。


「いや、あの……いったいなんで……?」


 部屋を囲っていたジンヌの見えない壁は、きっとアスィの強大な力によって破壊されたんだろうとわかる。

 だからサリアがガラスを突き破ることができたし、トルダさんがこの部屋に入ることができた。


 そこまではいい。


 でも、どうしてサリアがトルダさんと一緒にいるんだ?


 俺は前方のサリア、後方のトルダさんを交互に見やり、そこに関連性を見出そうと思ったけれど、ちっともわからない。


「クルス、話はあとよ! あなたがクルスを傷つけた連中の大将ね!?」


 サリアが鉄剣の先をマーサンの喉元につきつけている。


「サリア、待て。俺は大丈夫だ」


 慌ててサリアを制止する。


「やれやれ。まさか追わせていたはずの標的が自ら乗り込んでくるとはね。しかも援軍を連れて来るなんて、びっくりだよ」


「当然のことよ。そもそもペリュシェスを目指していたのはクルスとツァルなんだから。そのふたりを置いてわたしたちだけが行ったって無意味じゃない」


『信用されてないな、クルス』

「ツァル、おまえもだ」


 ツァルの言葉に憮然として言い返す。


「心配だったの! 信用はしてるよ。でも、わたしに手伝えることが少しでもあるのなら手伝いたかったの!」


 サリアがちらりとこちらに視線を向けて主張する。


「仲の良いことだね」


 マーサンが呆れたように苦笑を浮かべる。


「さあ、みんなを解放して。こんなところに精霊を閉じ込めるなんて、最低よ」


「解放しろと言うけれど、君の精霊がこの檻を囲っていた壁を壊してしまったじゃないか。僕が何もしなくたって、ここの精霊たちはもうどこへでも行けるはずだよ。僕の仲間もみんな君たちが倒してしまったんだろう? 今なら、僕に彼を引き止める術もない。好きにすればいいさ」


 それまで緩慢な動きしか見せていなかった精霊たちが、徐々に動き始めていた。

 精霊を閉じ込める不思議な壁は、今はただのガラスの壁でしかなくなった。


 衝撃を与えればすぐに割れる。


 飛べる者は天井の穴から。

 飛べない者は、側面の壁を突き破って。


 精霊たちが外へと逃げてゆく。


『おまえら、もし行く当てがないのなら、ペリュシェスへ向かってくれ!』


 ツァルが去ってゆく精霊に向かって声を投げかけた。

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