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10 かつて守護者の塔にて2

『すまない。これでも、私にできることは全てやっているのだ。しかし雨のひとつすら思い通りにならないのが現状だ。世界の流れが崩壊へと進み始め、私の介入を拒んでいる。私の力も、昔と比べたら随分と衰えた。私たち守護者は、数多の精霊たちの力を糧に、更なる強大な力を生み出し行使する者。世界から精霊が減れば、私たちの力も弱くなる』


「リファルディアは? リフシャティーヌもそうなのか?」


『ああそうだ。リフシャティーヌもがんばっている。それこそ、自らの身を削るほどに。それでも、現状を維持するのが精一杯なのだ』


「現状を維持って、この最悪な状況を維持してどうするんだよ」


『クルス、口を慎め』

「このままじゃ駄目なんだ!」


 ツァルの忠告に、俺は思わず声を荒げた。


 人がたくさん死んでゆくんだ。

 俺たちにはそれを救うべき義務があるのに、どうすることもできない。


『しかし私たちが今努力を怠れば、世界は確実に滅びる。だからやめるわけにはいかないのだ』


『ヴァルヴェリアスは精一杯やっている。自分たちにどうすることもできないからといってこれ以上を望むのは酷なことだと何故わからない。守護者だって万能じゃない』

「それは……それはわかってる。でも何か、何か方法はないのか?」


 ヴァルヴェリアスは痛ましそうな顔で、すいと視線を窓の外へと動かした。

 そこからは俺たちのヴァヴァロナの街が一望できるはずだ。


『精霊を……精霊の数が増えればあるいはなんとかなるかもしれない。この世界は精霊が作り出した世界。しかし人々はいつしか精霊の姿を見なくなり、声をきかなくなり、そうして精霊の存在を忘れてしまった。今では何かが起こったときに精霊堂に足を運ぶ程度だ』


 愁いを帯びた瞳のまま、ヴァルヴェリアスは続ける。


『みな、世界がそこにあるのが当然だと感じている。何故自らの住む世界がそこに存在するのか、世界を存続させるためにはどうすればよいのか、そんなことを考えもしない。それでは世界が助からないのも当然ではないか? 世界に精霊を増やしてほしい。かつての世界ほどとは言わない。けれど少しでも多くの精霊を。精霊たちが自らこの世界に留まりたいと思える世界に変わる必要がある』


「そうすれば、世界はまた昔のようになるのか?」

『可能性の話だ、クルス』


「それでもいい。そうか、確かに精霊が減ってきているとは思っていたんだ。人間が精霊のことを思い出せばいんだな。たとえ今は見えなくても、精霊のことを意識するようになれば、そのうち精霊の存在を感じられるようになるさ。だって、そこには本当に精霊がいるんだから。よし、やってみる」


『そうか。やってくれるか』

「ああ、当たり前だろ。ヴァルヴェリアスが望むなら、それを叶えるのが俺たちの役目なんだからさ」


『頼むぞ、クルス』

「もちろん」


 俺はヴァルヴェリアスに向かってしっかりと頷いた。


『言うことだけは一人前だな、クルス』


 せっかくやる気になっていた俺に、ツァルが水を差す。


「なんだよツァル、やるのか?」

『へっ、剣もまともに使えないやつが、何をやるって?』

「剣なんかなくたってどうにでもできる」


 俺とツァルは睨みあい、相手が動いたらすぐに自分も反応できるように構える。 

 ははっ、と笑い声が聞こえたのは、その時だった。


「ヴァルヴェリアス?」

『元気なのはよいことだが、ここで喧嘩をされては困る。守護者の塔の最上階で王子と守護者付きの精霊が殴り合いをしたなどという話はついぞ聞いたことがないからな』


『いつか決着をつけてやるからな』

「望むところだ」


『やれやれ、おまえたちは飽きもせずによくやるものだ。しかしいつまでもそんなことではいけないな。よし、今ここで仲直りをしなさい』


「え!?」

『は?』


『私の望みを叶えるのがクルスの役目なんだろう? ツァルは私の意に従わずして守護者付きの精霊は名乗れまい』


 確かにそうだけどさ。

 俺はツァルをちらりと見た。


 向こうも同じ様にこちらを窺っていて、ばっちり目があってしまった。


『さあ』


 ヴァルヴェリアスに促され、俺は仕方なくツァルに手を差し出す。

 主人の望みなのだから、ツァルも拒むことはできないのだろう。

 渋々といった風に俺の手を握る。


 互いにどうしても力が入ってしまうのはやむを得ない。

 ヴァルヴェリアスには見逃してもらおう。


 俺たちの様子を見て、ヴァルヴェリアスが笑みを浮かべた。


 小さいころから頻繁にこの塔に足を運んでいた俺にとって、最上階のこの部屋は居心地のいい、大事な場所だった。


 ヴァルヴェリアスから色んな話を聞かせてもらい、俺は下の世界で見知ったことを話し、ツァルとは些細なことがきっかけでいがみあい、それでもそういうやりとりが決して嫌いじゃなかった。


 そう、大切な場所だったんだ――。 

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