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7 信じたい言葉

 太ももが焼けるように熱い。


「クルスッ!?」

『銃か』


 忌々しそうにツァルが吐き捨てる。


 銃は、公には製造を認められていないはずだ。

 少なくともヴァヴァロナとリファルディアでは製造所持使用を禁じている。


 だから、銃をこの目で見るのは初めてだった。

 たぶん、アラカステルの技術者が作ったものだろう。 


 俺はサリアを抱いたまま、向かいにある建物の陰に転がり込んだ。

 続いて何度か、銃声が響く。

 地面に弾が埋まり、土が跳ねる。


「クルス、大丈夫!?」


 右の太ももが熱い。

 どくどくと脈に合わせて痛みが響く。


 見ると、肉が抉られ、血が流れ出していた。

 幸い銃弾は残っていないようだ。


 でも、これでは走れない。


「サリア、先に行け」

「何言ってるの!? 止血しないと。それに、ペリュシェスには一緒に行くんだよ」

「今は先に行け。あとで必ず追いつくから」


 複数の足音が近づいてくる。


「クルス!」

「行け! このままじゃ一緒に捕まるだけだ」


「でも」

『行きましょう、サリア様』

『そうだな。先に行ってくれ。こっちはどうにかするから大丈夫だ』


「アスィ、サリアを頼む」

『わかりました』


 人の姿になったアスィがサリアを抱え上げ、駆け出した。

 抱えられたサリアは、アスィの肩越しにこちらを見ている。


 俺は可能な限りの笑顔を作って、サリアに向かって片手を上げた。

 できるだけ俺のことを気にせずにアラカステルを発てるように。


 と、背後から肩を強く蹴られた。

 手をついて上半身を支えようとしたけれど、更に肩を踏みつけられ、俺は無様に地面にへばりつく。

 口の中に、土が入り込む。


「おい、ひとり逃げたぞ。女のほうだ。追え!」


 既にアスィとサリアの姿は暗がりに消えている。

 サリアを追うために俺のすぐ横を駆け抜けようとした足首を、とっさに掴んだ。

 男が倒れそうになる。


「放せっ!」


 言うなり、男はもう片方の足で俺の手を踏みつける。


 誰が放すか。

 手の力を緩めずにいたら、わき腹に鋭い痛みがはしった。


「ぐっ……」


 靴先が腹にめり込み、体が吹っ飛ばされる。

 足首を掴んでいた手が放れてしまった。


 でも多少の時間は稼げた。

 この間に、アスィは遠くまで逃げただろう。


 みっともない姿を見られなくて、よかった。


 男がようやくこの場を走り去る。

 残ったひとりが、舌打ちをするのが聞こえた。


 俺は痛みに耐えながらゆっくりと身を起こした。


 途端、待ち構えていたように俺のみぞおちに蹴りが入る。

 それは一度では終わらず、二度、三度と繰り返される。


 俺は耐え切れず、うずくまった。


 視界がかすむ。

 音が遠ざかる。


 痛みのせいなのか、血を流しすぎたせいなのかはわからない。


『クルス! 今は辛抱しろ。大丈夫だ』


 わかってる。


 そう返そうと思ったけれど、声にならなかった。


 大丈夫。

 今はツァルのその言葉を信じよう。


 俺はひとりじゃない。

 あまり役に立たないけれど、ツァルが一緒なんだから。


 そう思ったのを最後に、意識が遠のくのがわかった。

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