17 背中にまわされる細い腕
「サリア、でも俺は――」
俺は何も覚えていない。
実感なんて全くない。
俺は俺でしかない。
そう言おうとして、はっとする。
サリアも同じことを言っていた。
王家の血を引いていても、自分は自分だと。
血筋なんて関係ないと。
言いよどんだ俺に気づいて、サリアがくすりと笑った。
「サリア」
「わかってるよ。クルスはクルスだよね。わたしが追ってきたのは、クルストラ王子なんかじゃなくて、リファルディアまで一緒に旅をしてきたクルスだから」
「ありがとう、サリア」
ほっとしたその時、突然、橋が大きく揺れ始めた。
「きゃっ」
サリアが短い悲鳴を上げる。
「地震だ」
俺は鉄道橋の上に片膝をついた。
サリアの手をつかみ、自分のほうに引き寄せる。
ふわり、と腕の中にサリアの体が舞い込んだ。
『おい、揺れてるぞ、かなり揺れてるぞ、大丈夫なのか!?』
『まあ、橋の上ですからね、揺れるでしょう』
動揺するツァルと、少しも動じないアスィの会話はちぐはぐでどこか緊張感に欠ける。
俺はそんな会話を聞きながらも、どうか橋が落ちないようにと心の中で祈る。
間違ってもサリアが転がり落ちたりしないようにしっかりと抱いて、揺れがおさまるのを待つ。
幸い、揺れは程なくおさまった。
ほっと胸をなで下ろす。
大惨事にならなくてよかった。
「もう大丈夫……」
声をかけようとして、すぐ近くにサリアの頭があることに気づく。
今更だけれど、サリアの軽くて柔らかい感触に動揺する。
俺は慌てて抱いている腕を離した。
「ごっ、ごめん!」
けれど、サリアは俺の胸に顔を押し付けたまま、動かない。
「サリア?」
「どうして……」
サリアの小さな声が聞こえる。
その声は微かに震えていた。
「どうして、黙って先に行ってしまったの? 誰もいない精霊堂を見て、わたしがどんな気持ちになったかわかる?」
俺は息を呑んで、腕の中のサリアを見る。
それは、これ以上サリアを危険なことに巻き込んではいけないと思ったからだ。
サリアが王家の血を引いているのなら尚更、旅なんてさせたらいけないと思った。
「クルス?」
返事がないことを訝ったのか、サリアが顔を上げた。
「ごめん。サリアを俺たちの旅に巻き込むのはよくないと思ったんだ。俺にはサリアを守りきる自信がないし、何かあっても責任がとれないから」
「何かあっても自己責任。最初にそう言ったでしょ? わたしも納得した。それで一緒に旅をしてたんだよ?」
「ごめん」
目を伏せて謝罪の言葉を続ける。
と、サリアが腕を俺の背中にそっとまわした。
優しく抱きしめられて、俺は動揺する。
「サ、サリア!」
「許してあげる。でも、もう二度と置き去りになんてしないでね」
「……ありがとう、サリア。約束する」
俺は離したばかりの腕で、もう一度サリアを抱きしめた。
細くて軽くて柔らかいサリアを傷つけないように気をつけながら。




