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15 並んで向かうアラステル

『助太刀します』


 アスィの声が聞こえるものの、同行者の姿はない。

 声はサリアが握っている剣から聞こえる。


「ごめん」


 俺は素直に謝った。

 サリアは満足そうにひとつ頷き、軍服の男に突っ込んでいく。


 その動きに俺は目を剥いた。

 速い。


 俺が防御一方だった例の男を相手に、対等に切り結んでいる。

 いや、サリアのほうが優勢だ。


「すごいな」

『義父に仕込まれたって言ってたぞ』


「それだけで?」

『あいつの義父は元リファルディア軍の将軍らしいぜ。義母は筆頭女官だったとか』

「なるほど」


 あの体力に将軍直伝の剣術、その上鋼鉄の剣ときては、相手も苦戦するだろう。


『アスィはまあ、硬いのが取り柄の精霊だからな。こういうときは便利だな』


 サリアと男たちの向こう側では、ドッツェが倒れたまま呻いている。

 その上でのびている男は気を失っているようだ。

 たぶん車輌の屋根上にいた男だろう。


 背後に気配を感じて、咄嗟に飛び退く。

 座席のほうに蹴り飛ばしておいた男がいつの間にか戻ってきていたようだ。


 サリアの登場に気をとられていて、すっかり忘れていた。

 俺は切っ先をかいくぐり男の後ろに回ると、後頭部に手刀を見舞って気絶させた。


『体術は得意だったんだよな、おまえ』

「それには気付いてた」


 記憶は無いけれど、体がどんなときにどう動けばいいのかを覚えている。

 これまでにも喧嘩や揉め事に巻き込まれたことがあるけれど、なんとか切り抜けてきた。


 サリアと出会ったときも、そうだ。

 俺は落ちている剣を拾い上げ、どうしようか迷う。


 と、どさりという重い音が聞こえた。

 顔を上げたら、軍服の男が床に倒れるところだった。


 立っている敵はあとひとり。


 サリアは倒れた男を跳び越え、一息に残りのひとりとの距離を詰める。

 男は反射的に後ろに下がった。

 そこには転がったままのドッツェたちがいて、それに足をとられた男の体が傾いた。


 サリアはその隙を見逃さず、斬りかかる。

 そのままでは、男を殺してしまう。


「サリアッ!」 


 咄嗟に叫んだけれど、間に合わない。

 サリアの剣が振り下ろされるのと同時に、鈍い音が聞こえた。


 男の、斬られたほうの手がだらりと垂れ下がり、剣が落ちる。

 いや、血は流れていない。


 斬らなかったのか?


「なに?」

「大丈夫なのか?」


 俺の問いに、サリアは数度瞬きした。

 それから笑みを浮かべて、答える。


「鎖骨を折っただけだよ」


 そう言いながら俺のほうに歩いてくる。

 俺が誰のことを心配しているのか気付いたようだ。


 もちろん相手の男のほうに決まっている。


 サリアの強さは半端じゃなかった。

 サリアが鉄剣を俺の目の前にかざした。 


「あ」


 俺は思わず声を漏らした。

 刃がない。


 これでは、ただの鉄の棒と同じだった。


『で、残るはあいつだけだな』


 男の体の下からようやく這い出したドッツェが、ひぃいと変な声を出しながらずるずると後ろに下がってゆく。


「今のうちに逃げるぞ」

『おい、本気かよ』


「殺したらまずいんだろ?」

『親の仇だぞ』


「おまえのせいで、俺は何も覚えてないんだよ。そんなこと言われても困る」

『こいつらのせいで、世界の崩壊が早まったんだとしてもか?』


「じゃあ、こいつを殺したら何かが変わるのか?」

『それは……』


「まあまあ、ツァル。ここはひとまず撤退しようよ。橋の向こうに、わたしが乗ってきた馬がいるから」       


 サリアが宥めるように言う。


「行こう」


 俺は頷き、ツァルの返事を待たずに踵を返した。

 蒸気機関車は完全に停止している。

 鉄道橋の上を歩いて陸まで行くしかないだろう。


「あ、そっちじゃないよ。こっち」


 後方へ向かおうとしていた俺を呼び止め、サリアが前方を指差す。


「え? 俺たちを追って来たんじゃないのか?」


「追ってたはずなんだけど、馬だったから途中で追い越しちゃったみたい。アラカステルに着いたのはいいけれど、誰もクルスたちを見かけた覚えはないって言うから、来るのを待ってたの」


 俺たちは鉄道に乗るまで、ずっと徒歩で移動してきた。

 馬で移動していたのなら、随分と先回りできたことだろう。

 俺は苦笑した。


「そうか」

「笑ってる場合じゃないからね。あとでたっぷりお説教だからね」


 お説教、という言葉がおかしくて、俺は吹き出してしまった。

 なによ、とサリアが頬を膨らませる。


『さあ、行きましょう』


 アスィに促された俺たちは、アラカステルに向かって歩き始めた。

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